2017-11-06

「夜の訪問者」。

いわずと知れた小川順子の1975年のヒット曲である。

きっときっとまた来てねーーっと。

いや、そうではなくて。

テレンス・ヤングとチャールズ・ブロンソンのゴールデンコンビ。って他に「レッド・サン」と「バラキ」しか知らないんだけど。

英タイトル「COLD SWEAT」。アイスクリームじゃないよ、それは「sweet」。「COLD SWEAT」とは「冷や汗」のこと。昔の映画の邦題は風情があるね。

いやいや、そっちでもない。

昨日といっても日付をとうにまたいだ深夜。玄関ベルが鳴った。もちろん寝ていたのだが眠りの浅い僕は起きてしまった。

時計を見たら２時。こんな夜中になに？　家族に何か？　いや全員うちにいるはずだ。11時には全員いた。

こんな夜中に誰。玄関ベルが鳴ったのは一回だけ。郵便配達ではなさそうだ。

ドア越しに「どなたですか」と訊くと、

「夜分にすみません、Ｔ京電力です」と。

でも、これが暴漢じゃないとは限らない。Ｔ京電力を名乗りつつ突然、刃物を持って家の中に踊りこんでこないとは限らない。僕には家長として家族を守る義務がある。傍らの樫材のステッキを握り締めた。

剣術の心得のある僕は棒を持つとそこそこ強い。高校の剣道の授業の勝ち抜き戦では４人抜きして有段者以外では唯一「殿堂入り」した。もっともすべてセコい小技の「引き篭手」での勝ちで先生には“もっと正々堂々と戦え”と叱責されたが。

つまり実はあまり強くないのでドアチェーン越しに聞いた、

こんな夜更けにバナナかよ。

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いや、こんな夜更けになんですか。

の問いにドアチェーン越しに見える作業服にヘルメットの青年は、

「先ほどこの一帯に停電がありまして、原因を調査しているんです」

はあはあ、寝てたんで気づきませんでしたが。それで?

「この一帯の配電をチェックするのにお宅様の敷地を通らないと入れないのでご許可をいただきたいのです」

なるほどそういうことでしたら。わかりました。でも一応、身分証を見せてください。

「はい」

うちの長男と同年の神山さん(仮名)はきびきびと応じてくれた。僕は個人的にＴ京電力という会社は大嫌いなんだけど、現場の人たちには尊敬の念を持っている。こんな夜中にお疲れ様です、どうぞお通りください。

物見高い僕はジャンパーを引っ掛け、通りに出てみた。富士見通りには回転灯を光らせたＴ京電力の緊急車両が停まり、神山さん(仮名)と同じ風体の青年たちがビルやマンションの間を忙しそうに行き来している。そこでせめてものご協力と「このビルは大家の○○さんが上に住んでます。あのマンションは不動産屋の管理で大家は住んでいません」と余計なお世話。

取り合えずうちに隣接する部分のトラブルではないということなので引き上げて寝た。

朝、といってもそのほんの数時間後なんだけど。家族にその話をしたら誰もチャイムに気づいておらず「夢でも見たんでしょう」と取り合ってもらえなかった。家族を守らんとステッキを握り締めた僕の覚悟を見せてやりたかったね。

ギャラリーの開店前、町内の情報通で知られ電気保安管理士の資格も持つ近所のアパートの大家さんに聞いたら、町内の空き物件の電気に異常が見られこの一帯が約一分間停電したがその異常はすぐに復旧しもう安心なのだとか。

きっときっとまた来てね。素敵な私の夜の訪問者。

そんなわけで今日はちょっと眠かった。でも快適で安全な生活のインフラを支えている皆さん、いつもありがとうございます。

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