カフェ「CHANG31」と水丸さんのウィロー

banka-an2003-10-19


地元のBBS「国立フレンズ」を見ていたら、大学通り (国立のメインストリート。それはそれはきれいな通りです。一度おいでください) に新しいカフェができたとの情報に接した。

 「CHANG31」のことだった。

  骨董品店の「CHANG31」がカフェに商売替えしたらしい。
  もっともこの店はスタートは喫茶店だった。ご主人のS藤さんが31歳の時に開店したのが店名の由来と聞く。ちなみに「CHANG」は「おとうちゃん」の「ちゃん」 。

  喫茶店時代には行った事がなかったが骨董屋時代には何度か行った。もちろん僕は目利きでも骨董マニアでもないのだけど、見て面白いものや形がきれいなものが多くあったので、見るだけでも楽しかった(というよりほとんど見るだけだったかな)。

  作家の嵐山光三郎氏も常連の一人で、最初にこの店に僕を連れて行ってくれたのも嵐山さんだった。8年位前。その時、嵐山さんは「これ、水丸にあげよう」、と「ウィロー」の大皿を買われた。結構いい値段だった。

  「ウィロー」をご存知だろうか。僕もその時まで知らなかった。18世紀、ヨーロッパ中を中国趣味(Chinoiserie=シノワズリー)が席巻したことがある。その時代に盛んに生産されたのが、「ウィロー」柄の陶磁器の皿だ。代表的な図柄は、大きな松に楼閣、卍型の組子のある垣根、楊柳を描き、船を浮かべた江水を配した山水図だ。そして空には二羽のツバメ。ヨーロッパでも中国でも作られ、幕末ごろからは日本でも作られた人気のパターンだった。


  これはある悲恋物語を絵にした図柄だという。諸説あるが、主人公は駆け落ちしてきた若い男女。この世で添えない二人がツバメになった・・・。この辺までは共通で、あとはいろいろ。船が追っ手だったり乗るべき船だったり、楼閣も目的地だったり幽閉の場所だったり・・・・。

  世界中にコレクターがいて、イラストレーターの安西水丸さんもその一人だ。装飾品というよりも普段使いの食器だから、一部のものを除いてそうベラボーに高いものはない。

  そんなご縁で時たま寄るようになったある早春の土曜日、「CHANG31」の店先でウィローを見つけた。荒縄で縛った5枚セット。ウィローといえば円形がほとんどなのだけど、それは楕円のものだった。珍しいと思った。これは水丸さんが欲しがりそうだ。
なんとか水丸さんに連絡を取って聞いたら、モノも見ずに、
「欲しい」
とのこと。遠方の水丸さんになり代わって、僕がその「オーバルウィロー」を押さえた。

  これが、僕が、「CHANG31」でした最大の買い物だった。お金は水丸さんのお金だけど。

  その時、「CHANG31」店主のS藤さんは、

「骨董商売も面倒なんでね、また喫茶店にしようと思うんですよ」

と言っていた。また

「職人さん雇うほどの大きい店でもないから自分で改装しようと思ってね。少しずつ自分でやってるんですよ。ほら」

と言って漆喰で汚れた手を見せてニコッと笑った。

  でも次に行った時は、

「腰痛めちゃってね、一時中断」

と苦笑していた。


  それからはや7年。まあ色々あったんだろう、このたび開店したわけだ。大きな掛け時計や喇叭式の蓄音機などをインテリアにした渋-−いお店らしい。近いうちに行ってみよう。なにはともあれ、商売繁盛をお祈りします。

  なお数年前、ある雑誌のグラビアの「趣味拝見」みたいな企画に、ウィローに囲まれて満面の笑みを浮かべる水丸さんが出たことがある。確信はないけど、その写真の端のほうにあるウィローはあの時の「オーバル」だったと思う。


上の画像は北京の朝市で購入したもの(蕃茄庵所蔵)。えっこんなのウィローじゃない? まあ、そうおっしゃらずに。