シネマ落語 「マンハッタン」by立川志らく

昼間はちゃんと堅気のお仕事をして、夜は落語に行った。

シネマ落語 でウディ・アレン「マンハッタン」。ご存知、立川志らく独演会「志らくのピン」 Part2である。

 志らくさんは談志門下で、今最も勢いのある芸人さんの一人だ。シネマ落語と言って、古今の名作映画を落語に翻案するという活動を続けている。

  「マンハッタン」と言えば、全編に流れるガーシュイン・メロディが欠かせない。そこでバイオリンによるガーシュインメロディの生演奏と落語のジョイントという珍しい演出が今回試みられた。

  今回は志らくさんのブレーンで、講談社の名編集長・元木昌彦さんに声をかけていただき、伺うことになった。

  同行は人形師の石塚公昭さん。カウント・ベイシーチャーリー・パーカー等のジャズマンや、吉川潮氏の名作『突飛な芸人伝』の表紙の落語家の人形も手がけている方だ。これ以上の頼もしい人もいない。(石塚さんについては僕のホームページから、石塚さんの公式サイトにリンクをはっているので、ぜひ見ていただきたい。特に「ギャラリー」が凄い。損はさせません)

  この「志らくのピンPart2」 では、毎月各界の著名人がプロデューサーを務め、いろいろな試みをするという趣向になっている。前回は銅版画家・山本容子さんがプロデューサーだったそうだ。

 高座の脇にテレビモニターを置いて、楽屋を生中継をしながら落語を演じるという仕掛けをしたという。ところが最後の幕間で楽屋にトラブルがあって、洋服に着替えて帰っちゃう志らくさんの後ろ姿がテレビに映し出されて場内騒然。と、そこにちゃんと着物を着た志らくさんがニコニコと現れてビックリという寸法。つまり楽屋風景の最後の部分だけは生中継でなく仕込みの録画だったというトリックだ。

  今回のプロデューサーは放送作家高平哲郎さん。高平さんがウディ・アレンをプロデュースするのだ。面白くないはずはない。

  ネタバレにならない程度に趣向を説明すると、ウディ演じるサイテー(でサイコー)の中年男を巡る恋模様を描いた名作『マンハッタン』に古典落語の名作「品川心中」「堪忍袋」「ざる屋」が複合的、重層的に絡み合って、ひとつの大河ストーリーが紡ぎだされるというものだった。泣いて笑って笑って泣いて、終演後は本当に拍手が鳴り止まなかった。

  次回のプロデューサーは作家の団鬼六氏。ベタに考えると史上初の緊縛落語か。そして次々回以降は、仕掛け人の元木さんはじめ、山本益博さん、吉行和子さん、大林宣彦さん、テレコムスタッフの岡部賢治さんらが控えている。そして来年の7月はわが嵐山光三郎さんだ。これはいかざぁなるまい。それにしても凄いプロジェクトだ。

  「いやぁ面白かったね」「構成が凄いね」などとしゃべりながら演芸場を出て、暗い平河町に進んでいたら照明もないのに明るい一角があって、そこには山本容子さんがおられた。光源は山本さんだった。

  石塚さんと赤坂に出て手近な居酒屋で軽く一杯。石塚さんについてもっと書きたかったけど、それはまた明日。