泣くなフクチャン楽団

banka-an2003-10-31


10月最終日の今日、生まれて初めてさいたま市に行った。さいたま市が誕生してから初めて行った、というのではない。大宮、浦和、与野に今まで行ったことがなかったのだ(列車での通過や乗換えはある)。凄く楽しかったのでそのことも書きたい。また、今日から我が家にインカ・カーン(9月26日の日記参照) がホームステイしていることも書きたい。でもそれより先に書かにゃならんことがある。

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 昨晩は高円寺のライブハウス「ペンギンハウス」で「枯野くちる&泣くなフクチャン楽団」のライブ。

 「ペンギンハウス」といっても国立の絵本専門店とは何の関係もない。名前は同じだが全くの正反対、極北の店だ。高円寺純情商店街にある。地下にある店に下りる階段からして、1970年代のもっともディープな中央線文化を体現している。

 「枯野くちる&泣くなフクチャン楽団」はリーダーの深澤久雄翁(G)と枯野くちる(P、Vo)の二人ユニット。ジャンルとしてはなんだろう、ブルースだな。

 深澤久雄翁は甲府在住で僕より約一回り年長で「つげ」つながり。つげ義春の熱烈なファンで交遊も長く深く、つげさん原作の映画『ゲンセンカン主人』では石井輝男監督の甲府ロケハンをしきり、出演もしている。またイタリア製の大型バイクも乗り回すかっこいいオヤジだ。ギターは一時期スタジオミュージシャンをしていたという筋金入り。

 枯野さんは元・大手出版社の編集者で廃墟評論家。昨今の廃墟ブームのずっと前から廃墟の写真や評論を手がけている。と、ここまで書いただけで彼女も「つげ者」であることは容易に知れるだろう。下の写真ではわかりにくいが憂いを含んだ長身の美貌だ。ちなみに芸名(ペンネーム)はつげさんの名作『枯野の宿』から採った。深澤翁の命名

 曲はくちるさんのオリジナル中心。アンニュイなハスキーボイスが不可思議なつげ的世界観によく似合う。時折はさまれる深澤翁のソロも哀愁をおびて、聞くものを「沼」に「紅い花」の川に、「N浦」に、「ゲンセンカン」に、そして「合掌峠」に誘う。

 と、こういう雰囲気の音楽なのに「泣くなフクチャン楽団」のネーミングは何? と思った人も多いだろう。

 「泣くなフクチャン」というのは、つげさんの『池袋百点会』のラストシーン。昇仙峡の観光馬車の中、恋人に捨てられて泣くフクチャンに、彼女を愛しつつも言い出せない義男がかける言葉だ。

 二人の演奏を聴いていると、くちるさんのピアノが勝気だが純情なフクチャンの涙が落ちる音に、深澤翁のギターが昇仙峡を流れる川の水音に聞こえてくる。なるほど確かに「泣くなフクチャン楽団」だ。

 なんてことを観光馬車の馬方のおじさんになったような気分で考えた。