そういうわけで、昨日は江戸家まねき猫さんが関わるユニット「大江戸小粋組」の件で永六輔さんに会ったことを書いた。
江戸家まねき猫さんと言えば、寄席芸人としてだけでなく女優としての活躍も知られているところである。テレビの「鬼平」で五鉄の小女・おときを演じている。
鬼平と言えば言わずと知れた中村吉右衛門丈である。歌舞伎界の重鎮である。
この夏、吉右衛門丈が写真集を出された。
『播磨屋一九九二〜二〇〇四 中村吉右衛門』(求龍堂)である。5800円の豪華写真集だ。撮影は重鎮・稲越功一氏。名場面から稽古風景まで、20年の歳月がとらえた「中村吉右衛門」の魅力が結実した決定版だ。代表的な28演目を掲載し、和・英解説、対談付きという盛り沢山な本に仕上がっている。
この本の演目の解説を書き、対談を仕切ったのが歌舞伎研究家のおくだ健太郎さんだ。自らを歌舞伎ソムリエと称し、斬新な解説でイヤホンガイドやテレビで活躍中の人。
いつものように前置きが長くなった。気の短いお客は帰っちゃうな。
このおくださんのトークイベントに行ってきたのだ。あ、昨日ね。
お相手はご存知・歌舞伎好きの翻訳家・金原瑞人さん。今日のイベントのことは、女流義太夫の鶴澤寛也師匠に教えていただいた。都内の某・書店にて。寛也師匠とは現地集合。
タイトルは「今宵は歌舞伎三昧! 歌舞伎の敷居はこんなに低い!」
チラシに曰く「たとえ一番安い3階B席でもいいから舞台に足を運ぶが信条の金原瑞人氏。人気翻訳家の別の顔を公開!迎え撃つは、自らを歌舞伎ソムリエと称し、斬新な解説でイヤホンガイドやテレビで活躍中のおくだ健太郎氏。」
おくださん、見た目はスキンヘッドに手入れの行き届いたヒゲ、ダークスーツで、一見用心棒のようなコワモテなんだが、身振り手振り声色にアクションつきで面白いこと。えっ? 僕より5歳年下? ・・・・貫禄ありすぎ。
一方の金原さんは相変わらず青年のような若々しさで「こなれた院生」ぐらいの感じなんだけど、年齢は僕より7歳上。つまり、このお2人、約一回り違いなんだけど、そうは見えません。対照的なお2人の対比も面白かった。
トークは、それぞれの歌舞伎との出会いから始まり、歌舞伎の楽しみ方まで、あっち行ったりこっち行ったりしながらも場内は爆笑の渦。
中でも一番興味深かったのがおくださんの発言で、「歌舞伎を見たことないんですが最初にどういうのから見ればいいですか?」という定番の質問への答えだ。それは、
「今月のを見てください」
だそうである。確かに初心者向けの演目もあれば通向けの演目もある。でも肝心なのは「見たい」と言う気持ち。そのテンションがあるうちに見てください、きっとなにかつかめます、とのこと。なるほどそういうもんなのだろうな、「知らざぁ言って聞かせやしょう」を待っているうちに気持ちがしぼんじゃう可能性もあるわけだからね。
このトークショーを聞けば「歌舞伎の敷居はこんなに低い!」ことは容易に理解できるだろう。
惜しむらくは、集まった人のほとんどが「歌舞伎に敷居はない」ことを既に知っている人たちだったこと。だから「歌舞伎は敷居が高い。難しい」と誤解している人を、こういう場に引っ張り出すことが今後の課題なんだろうな。
そのためにも、おくださんや金原さんのような人の果たすべき役割はますます増えてくると思う。ぜひ頑張ってください。と松竹の社長のようなことを考えてしまった。