蕃茄、警察に取り調べられる

ついさっきのこと、夜の10時過ぎ、地理不案内な都内某所にて。

道にバイクが倒れていて、その傍らにヘルメットをかぶった中年男性(以下オジサン)が倒れていて、若い男性(以下アンチャン)が助け起こしていた。

交通事故?!

ここで黙って通り過ぎることができれば、今日の僕はない。幸か不幸か。たぶん不幸。義侠心ではない。単なる野次馬根性。

そばによって様子を見ると、立てないようだ。アンチャンが助け起こそうとしても、手を離すとすぐへたり込んでしまう。バイクはフェンダーが壊れている。

アンチャンに、「交通事故?」と聞くと、あいまいに「ハァ」という。

アンチャンは徒歩の人なので接触事故の加害者というわけじゃない。第一そばに車はない。オジサンのバイクだけ。自損で転んだバイクのオジサンを助ける通りがかりの善意の人のようだ。

「救急車呼ぼうか?」と問うと、

「はぁ、そうですね」とはっきりしない。

オジサンに、

「救急車呼ぶよ」

というと、まだ立てないくせに、

「ダイジョーブ」などといっている。ちょっとロレツがおかしい。大丈夫といっている怪我人が大丈夫だったためしはない。どこか打ったのかもしれない。


結局、僕の携帯から119番した。

場所を聞かれたが何しろ地理不案内なので、巧く説明できない。ちょっと時間がかかってしまった。

オジサンはまだ立ち上がろうとして、よろめいている。

「今、救急車呼んだから」

と二人に言うと、アンチャンは

「あの、オレもういいっすか?」

ああ、いいよ。どうもご苦労さん。去っていくアンチャン。

オジサンはまだ立ち上がろうとして、よろめいている。あ、倒れる!危ない!

僕は咄嗟に抱きとめた。プーンと匂った。熟柿。

そういえば、大丈夫といっているヤツが大丈夫だったためしがないのは怪我人だけじゃなくてもう一つあった。酔っ払いだ。ロレツが怪しいのも納得できた。泥酔ライダーだ。

「俺んちここだから大丈夫・・・」といって、目の前のアパートに入っていこうとする。

だめだよオジサン(逃げるな)、人んち勝手に入っちゃ。それでも存外に強い力でアパートに入っていこうとするオジサン。

ちょうどその時、歳末防犯の町内会の見回り2人が拍子木をうちながらやってきた。

「火のーーーよぉーーーじーーーーーーーーん」。カッ!カッ(拍子木の音)

おお、天の助け。「ちょっと火の番の人たち、助けてください」と僕は声をかけた。

火の番のお2人、こちらは見たらニヤッとして、

「セイちゃん(仮名)、いいご機嫌だね、今帰り?」

なんだ、本当にここの住人だったのか。自宅の前で転んだのか?

僕の手を振り払って、オジサンはアパートに入っていってしまった。

おーーい1人にしないでくれぇ。


ちょうど、そこに救急隊から僕に電話が入った。

「あー、今、どこにいらっしゃいますか?」

やはり僕の場所説明がわからなかったらしい。

「もう本人が自分の家に帰ったから取り消してください」

でもそうは行かないらしい。そればかりか、

「あー、こちらが到着するまでその場所を動かないでください」

とまで言われてしまった。


暖冬とはいえ、夜は寒い。寒空の下、一人ぼっちで救急隊の到着を待った。目の前には壊れたバイク。

救急隊と同時に警察も来た。もちろん僕が呼んだのではない。救急から連絡が行ったのだろう。手回しの良いことだ。

救急隊と警察に何度も何度もおなじ事を聞かれる。警察にも所轄と機動があるからね。このへんは「ドキュメント警視庁24時」のファンだから良く知っている。

何度もおなじ事をちょっとずつアレンジを変えて聞かれるので、嘘をついてたらばれると思うな。

救急隊はほどなく帰った。

これからは警官とオジサンだけの関係になる。敬礼して僕を解放すると、数人の警官がアパートに入っていった。

オジサンはもしかしたら免許を失うことになるかもしれない。僕が電話をかけなければこんなことにならなかったのにと同情する気持ちはある。

でも、立てないほど泥酔していながらバイクに乗ってしまうような人は、多分運転をしないほうがいいとも思う。

現場にはいつ脱げたのかオジサンの靴が片方だけ転がっていた。