母さんと鰻

職場で風邪が流行っている。

今日は同僚のピョートル(仮名・30歳ぐらい。アパートで一人暮らし)が風邪で病欠した。

午前中、どうしても業務上、確認を取らなければいけないことが生じてしまった。療養中悪いと思ったが電話をかけた。手帳をめくって番号を確認してダイヤルする。

「はい、もしもし」

おばさんが出た。あれ、一人暮らしのはずなのに。しまった、ピョートルの実家に電話してしまった。ご母堂だ。あ、これ数年前の手帖じゃん。彼が独立する前の住所が書いてある。

ご母堂少しも慌てず、

「あらあら、蕃茄さん、いつもお世話になってます」

僕も何度か会って知っているのだ。

「あ、すいません、間違えてご実家に電話してしまって。いえね、ピョートル君が風邪をひいて休まれているものですから・・・・。」

などと余計なことまで口走ってしまった。


夕方、ピョートルから業務連絡で電話があった。

「蕃茄さん勘弁してくださいよ、、昼間お袋が来ちゃいましたよ、鰻の蒲焼持って。まあ、おかげでまともな飯にありつけましたけど」


ほほぅ、僕のトンマもたまには親子団欒のきっかけをつくったりするのだなぁとしみじみしてしまった。

「3日遅れだがカーネーションで贈っときな」

と言い置いて、電話を切った。