池袋・新文芸坐で開催中の「追悼・岡本喜八監督の軌跡」。今日の上映作品は「江分利満氏の優雅な生活」(1963・東宝)
言わずと知れた山口瞳先生の直木賞受賞作の映画化だ。前々から見たいと思っていたのだけど初めて見ることができた。
おもしろかったなあ。場内は笑いの渦。僕もずいぶん笑ってしまった。そして江分利の屈折がずんずんと重く胸に突き当たってくる。
主役の江分利満、すなわち瞳先生の分身は小林桂樹。最近携帯電話を使い始めたあの方だ。妻・夏子、すなわち治子夫人は新珠三千代。東宝作品なので二瓶正也、桜井浩子のウルトラコンビも会社の後輩役で出ている(ウルトラQよりも前だな)。
瞳先生もバーの客の役でワンカット出演されている。
何がいいって、江分利の独白がたっぷりある。すなわちこの部分は名優・小林桂樹による名作「江分利満氏の優雅な生活」の朗読である。これが聞き得!!
それにしてもEVERYMANとはよく言ったもので、だれもが江分利の中に自分を見ることだろう。若い奴らに鬱陶しがられながらも自分の屈託に蓋をすることが出来ないんだよな。その屈託の質や量の違いこそあれね。
小林桂樹はこのあとも瞳先生の役を演じている。1980年、NHKドラマの「血族」。母の葬儀で兄を怒鳴りつけるシーンは「血族」でもあった。それと瞳先生の追悼番組でも瞳先生のパートの朗読を担当した。絶筆の「男性自身」最終回は聞いていて泣けて泣けてしょうがなかった。
映画では、横山道代が江分利に小説を書かせる婦人画報の記者の役で出てくる。役名は「矢口純子」。ニヤリとしたあと、またシンミリしてしまった。
※瞳先生をデビューさせた名編集者・矢口純氏はこの4月30日亡くなられた。