「リカちゃんと怪獣」。これは志らく版「どん底」である(!?)

banka-an2005-05-29


昨日は運動会で一日が終えたかというとそんなことはなくて、立川志らく劇団「下町ダニーローズ」の第4回公演「リカちゃんと怪獣 〜いわゆるトイストーリーのようなもの〜 」に行ってきた。神楽坂にできた芝居小屋「iwato」にて。「笑いのためならどこにでも行く」という長男・虎太郎(仮名・高1)を連れて行った。

 
 この劇団は立川志らく師匠率いる喜劇一座で志らく師匠の他、モロ師岡さん(ゲスト)、柳家一琴師匠、立川談四楼師匠、酒井莉加さん等、気になる人、見逃せない人たちが大挙出演されている。もちろん前回の「エクソシストたちのうさばらし」も見た。


 今回の芝居は・・・・、もう千秋楽だから多少のネタバレは書いてもいいやね。舞台はおもちゃ箱の中。登場人物はすべて人形。隣り合わせた2軒の家のそれぞれのおもちゃ箱の人形たちの織りなす人間模様ならぬ「人形模様」。前向きに生きるものもあれば宿命に身を委ねてしまっているものもある。もちろん恋もあれば親子の別れもある。死もあれば嫉妬もある。あらゆる裸の「感情」が渦巻いている。


 登場する人形は、リカちゃん人形、ジェニーちゃん、ゴジラのぬいぐるみ(パチモノ)、ダルマ、コケシ、リカちゃんのパパ、キャベツ畑人形、GIジョー、踊るサンタ、フランス人形、フラワーロック、粘土(?)等々・・・。そして怪しいキャンデー入りのドラえもん等々・・・。


 そう、タイトルにあるように確かに「トイストーリーのようなもの」だ。でも僕にはそれとは違う妙な既視感があった。


 それは「どん底」。最底辺の地下室の木賃宿に住む人間たちの姿を描いたゴーリキーの名作。日本では黒澤明が三船主演で映画化している。でも「リカちゃんと怪獣」は、それより古い(1936)フランス映画、ジャン・ルノワール監督の「どん底(Les Bas-Fonds)」の方が近いかな。主演はジャン・ギャバン、ルイ・ジューヴェ。


 暗く閉ざされたおもちゃ箱はまさしく「どん底」の木賃宿。ここに来てしまったのは運命であって、自分ではもうどうしようもない。そこにあらわれるのが「もしかしたら運命を変えてくれる不思議な力を持っているかもしれない」ドラえもん人形。座長の志らく師匠が演じている。ドラえもんの、頼もしいようでどこかセコいそのキャラクターは落語国の住人を思わせる。


 モロ師岡さん演じるゴジラギャバンだな。ルノワールの「どん底」ではクライマックス、ギャバン演じるコソ泥・ペペルが恋するナターシャ(薄倖の美少女!)を守るため因業な宿の主人を倒し、ナターシャと手に手をとって新天地に旅立つ。「リカちゃんと怪獣」のクライマックスでリカちゃんを守るため火を吹くゴジラの姿はペペルそのものだ。
 

 薄倖の美少女ナターシャ、じゃなくてヒロイン・リカちゃんを演じるのはもちろんリカちゃん、酒井莉加さんだ。この劇団の花形女優で、華奢でどこか儚げな風情が役にあっている。父を想い母を想う姿が健気でいじらしい。お人形さんの衣装も似合っていてとても可愛い。


 わが一琴さん演じるはダルマ。こちらもある意味かわいい。動きがほとんどなく座ったままの演技がほとんど、というと晩年の古川ロッパみたいだけど、かっこよかったなあ。先代の尾上松緑のような貫禄。島田正吾のような存在感。噺家さんだから台詞回しが歯切れがよくきれい。ついでに言えば「達磨メイク」が妙に良く似合う。


 スイッチが入ると踊りが止まらなくなるダンシングサンタの談四楼師匠、いろんな形に変えられてしまう「粘土」の阿部能丸さん、船場の大店の旦那みたいな美しい大阪弁を操る招き猫・立川文都師匠、等々、面白い人を挙げたらキリがないくらい面白い人の宝庫な芝居だった。

 そして大笑いの中にも「運命との対峙」なんて命題を考えてしまう、あっという間の2時間だった。大笑いの中に重いもの苦いものを包み込みつつ、最後に明るい光を見せる。さらには役者さんの新たな一面を引き出す。やっぱり志らくさんは凄い!!


 それで先に書いたように今日が千秋楽。出演者の皆さん、スタッフの皆さんお疲れ様でした(照明、よかったっす)。次回も必ず行きますね。