日曜の昼に祈る

昼飯を食いに行こうと家の近所の道を歩いていたら、こちらに向かってくる自転車が前方30メートルくらいの地点で突然横に倒れた。おじいさんだ。

慌てて駆け寄ると、僕に続いて駆け寄った人がいた。国産最上級の高級車に乗った50年配の女性だった。道の端に車を停めて駆け寄った。

脳関係だったりするとやたら動かさないほうが良いのでとりあえず声をかけてみたら、脳関係の発作では無さそうだったので、僕がおじいさんを抱えおこし、セルシオ夫人が自転車を起した。

僕がおじいさんに「大丈夫ですか」と問うと「大丈夫」という。

セルシオ夫人が「ご家族に電話して呼びましょうか」と言っても「大丈夫」という。

そして自転車のハンドルを握るので、「乗っていくの危ないですよ」というと「押して帰るから大丈夫」

と言って、自転車を押して歩き始めた。もし、サドルにまたがろうとしたら走って行って押しとどめようと身構えつつ見送ったがその様子はなく、自転車を押したまま歩き去ってしまった。

僕とセルシオ夫人は、

「大丈夫、ですよねぇ・・・」

「そうですねぇ、もし車でお送りすると言っても断ったでしょうしねぇ、あの様子では」

「自転車、乗っていきやしないですよねぇ」

「ええ、多分大丈夫でしょうけど・・・。でももうそれは祈るしかないですねぇ」

などと話し合って別れた。

見ず知らずの他人のために祈るのは初めてだった。

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