瀋陽、右往左往(4)  幻のパシナ

・・・・5月2日の日記<4>・・・

そう、パシナが気になっていたのである。

パシナをご存知だろうか。満鉄の伝説の特急列車「あじあ」を引っ張った蒸気機関車である。僕は鉄道にはほとんど興味がないのだけど、このパシナは造型がメチャメチャかっこいいので大好きなのだ。


 あじあ号の雄姿

ね、かっこいいでしょ。

好きになったきっかけは2冊の本だ。『満洲鉄道まぼろし旅行』(川村湊・ネスコ)と、現在は文庫判の『あじあ号、吼えろ!』(辻真先・徳間文庫)

満洲鉄道まぼろし旅行  
 『あじあ号、吼えろ!』

満洲鉄道まぼろし旅行』は往時の資料を使った、仮想の満洲横断旅行記。ディテールへのこだわりが感動的。幻からさめた瞬間の切なさは出色。

一方の『あじあ号、吼えろ!』は 大戦末期の満洲で、あじあ号に乗り合わせた上原謙がモデルと思しき映画俳優と謎の男装の美女(モデルは言うまでもない)が繰り広げる大活劇ロマンだ。

2作ともそれぞれに主人公はいるものの、影の主役は「あじあ号(=パシナ)」で、抜群の存在感を見せている。


解放後も中国大陸で活躍していたがやがて引退。長らく雨ざらしになっていたが、日中の熱心な研究者の方々の尽力で修理されて、瀋陽の「蒸気機関車博物館」で静態保存、公開されている・・・。

と聞いたのが、数年前だった。そのニュースに接して以来、ずっと見たいと思ってきた。今回、瀋陽を旅行先に選んだ理由の一つも、「あじあ号」が見たいだった。


で、話がこれで終わらないのが中国の面白いところである。今回、出発前に調べてみたところ、えらいことが判明したのだ。

瀋陽で「花博覧会」が2006年に開かれることになった際、なんとその会場として「蒸気機関車博物館」がある公園に白羽の矢が立ち、立ち退きを余儀なくされたのだ。

なんてことを・・・。行き場を失った可哀想なパシナ・・・。

しかし幸い、瀋陽市郊外の鉄西森林公園の中に博物館に移築されることになり、2007年には建物が完成し、パシナを筆頭とする貴重な機関車たちが無事、収蔵された。

めでたしめでたし。

と、これで話が終わらないのが中国の不思議なところである。


建物は出来上がって、機関車も収蔵されたというのに、なぜかオープンしないというのである、その「蒸気機関車博物館」が。2年近く経つというのにいまだに。

インターネットでいろいろ調べて、また研究者の方や関係団体に問い合わせても見たのだが、その時点で情報は途切れたまま、もしくは状況は変化していないようなのだ。

こうなったら、現地の人に聞くしかない。

そういうわけで僕は、遼寧和平国際旅行社の張さんに尋ねたのある、


「パシナはどうなってますか?」
 

と。
 

                 <つづく>