瀋陽、右往左往炭住の奥深く、そして・・・

・・・・・・5月3日(2日目)の旅日記<7>・・・・・・・

タクシーはずいぶん行ってから左折、南下を始めた。市街地からは大きく外れている。荒涼たる景色。途中、水道管が壊れたらしく30センチ以上冠水している道なんかもあってスリル満点だった。

スリル満点はいいが、ここはどこだよ。


そのうち、車はなんか寂れた大きな門の前で止まった。運転手さんは振り向いて僕になにやら言うが、もちろんわからない。

しばらく中国語と日本語で押し問答したが埒があかない。あくわけが無い、言葉が全然通じないんだから。

もう面倒くさくなった僕が、ノートに「撫順駅」と大書して「もう炭鉱はいいから駅に行ってくれ」と指し示したら、ムッとして両手でハンドルを叩き、天を仰いだ。悲憤慷慨。なんか傷つけちゃった?


でも車は駅に戻る様子は無く、その古びた大門を入っていった。無視ですか。


門の先は未舗装のガタガタ道。あちこちに池のような水溜りが出来ている。車はそのガタガタ道を土煙をあげ、水しぶきを立てながら進む。まるでパリダカラリーか「反対車」。しゃべったら舌噛見そうである。バックミラーにつるした銅鐸のアクセサリーがガンガンとフロントミラーに当たる。割れないかい?


そのうち、線路(炭鉱鉄道か)を越えて坂を下ると、レンガ造りの廃屋が見えてきた。あ、廃屋じゃない、人が住んでいる風だ。


もしかして・・・。あ、炭住か。

炭住、すなわち「炭鉱住宅」だ。炭住についての詳細は、←をクリック。


そうか、これを見せようとしてくれていたのか。ありがとう。


炭住はかなり広い範囲にある。廃屋かと見まごう古いものもあれば、ちょっとこぎれいなものもある。人の気配はそれほど無いが、大きな荷物を自転車に積んだ人や古いトラックや散歩する老人たちとすれ違う。


そして車は草に半分覆われた急坂を登り、登りきったところでザザッと止まった。

運転手さんに促されて外にでる。体が痛い。


でも眼下に広がる景色を見たときは体の痛みも忘れた。


露天掘りだ。草原の向こうに巨大な蟻地獄のような西露天鉱の露天掘りが広がっていた。これは・・・まさしく「煤都」だ。


そうか、これを見せようとしてくれていたのか。ありがとう。運転手さんはちょっと誇らしげに顎をクイッと上げた。


煤都の醍醐味を堪能した僕らを乗せて、車は撫順駅に向かった。猛スピードで。


20分ほどで撫順駅に着いた。「指呼の間」のつもりが一時間以上の旅になってしまった。先を急がない旅で良かった。

いい物を見せてもらった。ガイドブックどおりに行っていたら、露天掘りまでは見られても、炭住までは見られなかっただろう。


一時は険悪な空気すら漂ったが感謝である。タクシー料金は38元。約620円。


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