いしかわじゅん『秘密の本棚』


美代子阿佐ヶ谷気分
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ベテランギャグ漫画家にして、「マンガ夜話」でも知られるマンガ批評家である著者の最新刊『秘密の本棚』を読んでいる。ただのマンガ評論集ではない。かと言ってエッセイ集というわけでもない

秘密の本棚 漫画と、漫画の周辺


サブタイトルに「漫画と、漫画の周辺」とある通り、マンガとともに漫画史を語り、漫画史とともにサブカル史を語り同時代史を語り自分史を語る、という縦横無尽な本だ。「マンガ中毒であるとともに活字中毒だった」と語る著者の博覧強記には毎度驚かせられる。あと、記憶力にも(著者の事務所である「石川商店」を通り過ぎていった、ユニークすぎるアシスタント列伝もメチャメチャ面白い。全然知らない人のエピソードなのに)。


不思議なことに僕のようにマンガに全く詳しくないものが読んでも面白い。知ってるマンガの話だと「そうそう」と共感したり「なるほどそういう見方もあったか」と思い、「もう一ぺん読んで見るかな」となる。知らないマンガの話だと「へぇ、そうなんだー。じゃ、読んでみようかな」と思える。まぁなんというか、実に本屋さん思いの本だ。



タイトルもいいね、「秘密の本棚」。たしかに本棚って秘密だもんなぁ、財布の中味より見せたくない。本棚ってそのまま人が出るものね。言ってみれば「家具屋で売ってる日記帳」みたいなもの。それを惜しげもなく曝け出しているのもこの本の魅力だ。

WEBの連載の単行本化だったので字数制限がフレキシブルで書きやすかったとのことだ。なるほどテーマによってどうしても長くなるときあるものね。僕なども「書評のメルマガ」で編集長氏に迷惑をかけている。ごめんね。


で、その字数制限がない中で多くのページを割いているのが、1970年代のエロ劇画群のこと。これ、これまでちゃんと論じる人がいなくてねぇ。手塚治虫赤塚不二夫のことだったら語る人がいくらでもいるんだけど。

そのころのエロ劇画というのが本当に凄かったんだ。アナーキーなパワーを持っていて。いい意味での無法地帯で、なんでもあり。大手では絶対載せられないような作品や書き手に活躍の場を与えていた。僕たちの世代でギリギリ知っているくらいかもしれない。

多分、だけど、就職しそこなったゲバ学生上がりみたいな人たちが作ってたんじゃないかなぁ。ちょっと世を拗ねたような元左翼が「猖獗」してやりたい放題、なんてちょっと満鉄調査部みたいで素敵じゃないですか。

それと、多く論じているのが少年画報社の「ヤングコミック」のこと。1970年台にセカンドグループのトップランナーとして数々の話題作を送り出したマンガ誌だ。この雑誌の栄枯盛衰についても詳しく書いている。

僕も「ヤングコミック」の熱心な読者だった。上村一夫美人画の表紙に惹かれて毎号買っていた。捨てられずにずっと保存していた。そして、初めてこの著者、いしかわじゅんを知ったのも「ヤングコミック」だった。「蘭丸ロック」を初めて読んだ時の衝撃は忘れられない。

な、なんて下品なんだ・・・。

爾来30年、一貫してファンである


もちろんそういったビンテージなマンガだけじゃなくて、現在連載中の新しいマンガについても書かれている。1990年代以降マンガを読まなくなってしまった僕などはほとんど知らない作品ばかりだ。なのにこの本がこんなに面白いなんて。やっぱりその辺がこの著者の真骨頂、「芸」なのだろうなあ。


いしかわさんの本を読んでいると「ああ、この人は本当にマンガを愛しているんだなぁ。漫画に魅入られた人生だなぁ」、と感動する。前作の『漫画ノート』『漫画の時間』も面白かったけど、この感動は『秘密の本棚』がもっとも大きかったような気がする。


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