瀋陽、右往左往 鉄西を右往左往

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・・・・・5月4日(3日目)の旅日記<5>・・・・・・

タクシーがキュッと停まった。そしてそろそろと
停車中のバスに徐行で近づき、休憩中の車掌さんになにごとか話しかけた。


つまりけっきょくこのタクシーの運転手さも「鉄西森林公園」まではわかるが、博物館は知らなかったようで。それで聞いてくれているのだ。ありがとう。


問われて、曲がり角の先を指差して早口で応える車掌さん。曲がり角の向こうにあるのか、博物館が。

角を曲がると…。あれ? 工事現場。今度は迷彩服の作業員に聞く。どうでもいいが、中国の土木作業員は迷彩服の着用率が凄く高い。

作業員はさらに先の路地を指さす。


路地の入口にある古い集合住宅の前では、地元民らしい老人たちが将棋を指していた。

運転手さんが話しかけると、その中のおじいさんの1人が答えた。身振り手振りで「真っ直ぐ行って」「右に曲がって」等と伝えている様子だ。こんどこそ知っている人を見つけたか。


つまりこういうことのようだ。

〈1〉バスの車掌はこの界隈を通過するだけの人である。だから「その角を曲がったところに工事現場あって人がたくさんいるからそこで聞いてみな。だれか知っているだろ」とアドバイスをした。

〈2〉そして工事現場の作業員は「オレらは余所者だからこのへんのことは知らん。この先のアパートの前で、いつも将棋を指している年寄りがいるから、聞いてみな」とアドバイスをした。

〈3〉そして将棋老人。さすがに地元民で、鳴り物入りで建築したのにいっかな開業しない不思議な博物館の評判をちゃんと知っていた、という事なのだろう。


タクシーはいい調子で走り始めた。すぐにつくかと思ったら結構走る。帰りはバスで帰るつもりなので、またあのバス停に戻らなくちゃいけない。たどりつけないと路頭に迷い、途方に暮れる。

ヘンゼルとグレーテルならパン屑を落すところだが、パン屑を持っていない僕は地図と道を必死で見比べつつ、風景を頭に叩き込む。

また三吉が囁く。


「道、合ってる?」


・・・知らん。それに声をひそめる必要は無い。いや、気は心、いい心がけだ。


やがて、タクシーは若木が林立する小道に入っていった。なるほど確かに「苗圃」だ。


小道をぐんぐんと進むと、やがて、一気に視界が開けた。


林の中に、場違いに近代的な佇まいの建物があった。ショッカーの秘密基地かよ?

果たしてそれが、蒸気機関車博物館だった。


運転手さんは車をキュッと停めると、博物館を指差してニカッと笑い、僕らを下ろすと、猛ダッシュで走り去った。料金は30元。約500円


とうとうやって来た蒸気機関車博物館。

まわりには人っ子一人いない。あ、一台、車がいたが、僕たちと入れ替わりでいなくなった。

博物館は、見るからに、明らかにオープンしていない。昼前だからいいけど夕方だったら、かなり不安になる光景だ。


さて、ガラス越しでもいい、パシナには会いたい。せっかくここまで来たんだ。一目見ずに帰られりょうか? さぁ、行くぞ!!



とこのような父の悲壮な決心をよそに、三吉はこのだだっ広い広場で、クロスボーの試射に余念がないのであった。



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