昼から外出。
大学時代の「歌舞伎研究会」の先輩・チェンマイ太郎氏(仮名・来年還暦)と待ち合わせ。タイ王国・チェンマイから1年ぶりの里帰り中。去年の帰国中には当廊でのYO-ENライブに来ていただいたが、今年は世田谷文学館で開催中の「林芙美子展」にご一緒いただいた。
うかつにも京王線快速と各駅停車を乗り間違えて待ち合わせ時間を大きく割り込み「開演」ギリギリになってしまった僕を入口のところで待っていてくださった。
「文学館で“開演”ってなに?」って思われた方もあるかもしれない。世田谷文学館、通称「セタブン」は意欲的な斬新な企画で知られる博物館。そこで開催の「林芙美子展」である。並みのものであるはずがあろうか。
その名も「林芙美子展“貧乏コンチクショウ”」。
そのエンディングを飾るイベントにわがデリシャスウィートスが抜擢されたのだ。
つまり「貧乏コンチクSHOW」なわけだな。チェンマイ太郎氏とデリシャの縁。今春のチェンマイツアーのライブのすべてのブッキングをしたというご縁である。
チェンマイ太郎氏と2階の展示室に上がったのが14時ちょうど。司会のワープさんを先頭に館内を先触れ隊が練り歩いているところ。超満員。
そして開演。案内旗をもったワープさんのあとをゾロゾロついて歩くとその先々にデリシャのメンバーがいて芙美子の詩を一篇朗読するというもの。そしてそれぞれが芙美子へのオマージュをこめたパフォーマンスを披露する。
館内は僕らのようなデリシャ目当てのお客もいるが、多くは純粋に林芙美子の文学世界に惹かれて集まったお客さんたち。最初は「なによこの人たちは」という感じでデリシャを見ていた人たちも多かったが、コーナーを進むごとにデリシャのパフォーマンスに惹きつけられていくのが、明らかに見て取れる。さすがの求心力。
圧巻は2階展示室の結びの「花のいのちは」のコーナー。
林芙美子といえば「花のいのちはみじかくて、苦しきことのみ多かりき」の名フレーズ。ポルノの帝王・久保新二さんの約40年前の怪曲「マスマスのってます」でも歌詞に採用されているくらい人口に膾炙している。
芙美子が色紙によく書いたフレーズで、色紙用の惹句と思われがちだが全篇の詩句もある。
風も吹くなり
雲も光るなり
生きてゐる幸福(しあわせ)は
波間の鷗のごとく
漂渺とたゞよひ
生きてゐる幸福は
あなたも知ってゐる
私もよく知ってゐる
花のいのちはみじかくて
苦しきことのみ多かれど
風も吹くなり
雲も光るなり
この詩を場内の観客で一行ずつ朗読するという趣向。最後の、
「風も吹くなり
雲も光るなり」
は全員で唱和。これは感動的。後で聞いたら涙ぐんでいるお客さんもいたという。
このあとはぞろぞろと一階のホールに移動。エンディングのショーへ。
最初は芙美子の詩「苦しい唄」にデリシャの専属バンド「女横丁痺れ腰」のギタリスト、ベンジャミンオイカワさんが曲をつけた楽曲。
「苦しい唄」
隣人とか
肉親とか
恋人とか
それが何であらう――
生活の中の食ふと言ふ事が満足でなかつたら
描いた愛らしい花はしぼんでしまふ
快活に働きたいものだと思つても
悪口雑言の中に
私はいじらしい程小さくしやがんでゐる。
両手を高くさし上げてもみるが
こんなにも可愛い女を裏切つて行く人間ばかりなのか!
いつまでも人形を抱いて沈黙つてゐる私ではない。
お腹がすいても
職がなくつても
ウヲオ! と叫んではならないんですよ
幸福な方が眉をおひそめになる。
血をふいて悶死したつて
ビクともする大地ではないんです
後から後から
彼等は健康な砲丸を用意してゐる。
陳列箱に
ふかしたてのパンがあるが、
私の知らない世間はなんとまあ
ピヤノのやうに軽やかに美しいのでせう。
そこで始めて
神様コンチクシャウと怒鳴りたくなります。
これはかなりいい曲。全然似てはいないんだけど「ロッキーホラーショー」でフランケンフルター博士が自らが作ったマッチョな人造人間「ロッキー」への偏愛を歌った「I Can Make You A Man」をちょっとだけ思い出した。ここだけじゃなくまた聴きたいなぁと思ったら、9月発売のアルバムに収録されるらしい。うれしい。
そしてシメはやっぱりこの曲、パンツを振り回しながら歌う「白いパンツの唄」。
曲途中ではメンバーが客席に走り降りて客の頭にパンツをかぶせるという演出。チャーマァさんチェンマイ太郎氏の頭にパンツをかぶせたのを見て「へっへっへ」と思っていたら魔子ちゃんが僕の頭にパンツを。
演奏はなおも続く。その間はパンツをはずさないのがこういうときの正しい作法。
やがて演奏が終わりメンバー紹介も終わり告知も終わり館の係の人の終了宣言もあり、お客さんたちも席を立ち始める。
さて、パンツはいつはずすか。
こうなるとチキンレースである。チェンマイ太郎氏と僕のどちらが先にパンツをはずすか。負けられない。
とも思ったが、この人はパンツをかぶったまま電車に乗り宿に帰り、香港経由の飛行機でチェンマイに帰るのも平気な人だ。40年近い付き合いの僕が一番よく知っている。これはかなうわけがないと、文字通り「脱帽」した。
しかしよく考えたらチェンマイ太郎氏は今回、父君の法事のための里帰りである。まさかにパンツをかぶったまま喪服を着て喪主を務めることはあるまい。もう少しがんばれば勝てたかもしれない。勝ってどうする。
その後は館内の喫茶店に移動。おじいさん寄りのおじさん二人でシフォンケーキとアイスコーヒーをいただきながら四方山話。
そして開演時間を待つ。先ほど見たのは第一回、せっかくだから第二回目も見ようという作戦である。
移動しながらの観覧である。先ほどの一回目の経験を活かしてうまく移動し常にいいポイントを確保。最後のショーも先ほどは最後列だったけど今度は最前列。
終演後はいったん解散。チェンマイ太郎さんは知人と会うために新宿へ。僕は所用で千駄ヶ谷へ。
そして20時に中野に再集合。今回のショーの打ち上げとチェンマイ太郎氏とデリシャの再会祝い。中野駅前の居酒屋。高齢の女将さんが一人で切り盛りするじつに気持ちのいい理想的なお店。
メンバーはチェンマイ太郎氏、デリシャスウィートス座長のチャーマァさん、メンバーのチムニーちゃん、ワープさん、ギターのベンジャミンさん、スタッフのアラマキちゃん。
帰りの車中、運よく座れて眠気と戦いながらつらつら考える。今は前世は兄弟あるいは兄妹だったのではと思えるほど仲良しなデリシャの面々とチェンマイ太郎氏。この両者を結びつけたのは他ならぬ僕である。それは確かなんだけど、なぜそうしようと思ったのだろう。
前述のとおり、チェンマイ太郎氏と僕とは大学の歌舞伎研究会の先輩後輩だ。歌舞伎という紐帯で結びついた義兄弟である。
「歌舞伎」の語源が「傾く(かぶく)」であるのはたぶん、中学か高校で習うことである。「傾く(かぶく)」とは「並外れている、常軌を逸している」ということである。「並外れている、常軌を逸している」やつらが「かぶきもの」と呼ばれるようになり、「かぶいている芝居」が「かぶき芝居」となり「歌舞伎」となった。
だから現代日本においては大げさにしても、僕の周りで最も「かぶいている集団」であるデリシャスウィートスと最も「かぶいている先輩」であるチェンマイ太郎氏を結びつけるのは必然であり天命であったと思う。
と、大仰な結論に達したころ列車は日付変更線を越えて国立駅に到着した。綿のように疲れて帰宅すると倒れこむように爆睡した。
えっ? パンツはどうしたかって?
もちろんありがたく持って帰りましたよ。
どうするのかって?
もちろん、チャーマァさんデザインおよび法政、じゃなかった縫製の「作品」ですから飾りますとも。
世界堂にいけば「Tシャツ額」「ユニフォーム額」「うちわ額」「手ぬぐい額」なんてのがあるけどさすがに「パンツ額」はないはず。さぁ、どうやって額装しようかな。「画廊主の名をかけて」、腕の見せ所。
※本日の写真はおパンツ以外はチェンマイ太郎氏のフェイスブックから借用しました。
・・・・もうすぐ開催・・・・・
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