数日前このブログに興奮気味にこう書いた。
編集者時代、大好きで何度か仕事をお願いした歌人とフェイスブックで四半世紀ぶりに遭遇して興奮。メッセージを送ったら返信をいただいて大興奮。僕のことを覚えていてくださって大感動。夢心地でメッセージをやり取り。そんな秋の始まり。
僕は興奮すると話を盛る癖がある。すみません、盛ったつもりも無く盛りました。四半世紀じゃなくて15年ぶりだった。
その歌人とは林あまりさん。1980年代から90年代、切ない恋心と大胆な性描写で一世を風靡した。もちろん僕も風靡された一人だ。
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1992年頃のこと。ペーペー編集者の僕は代打の代打の代打で日本ペンクラブの総会に出席した。出席者はやはり高齢者ばかりだったがその中に女子大生みたいな二人がいてそれが女優の水島裕子さんと林あまりさんだった。すかさず名刺交換。そのときいただいたピンクの文字の名刺は本当に四半世紀たった今も大事に持っている(退職時にシュレッドするのがルールとか言わないでね)。しかし老眼の身にはほぼ読めない。
その夜のあまりさんは紺のブレザーにチェックのスカートだったと記憶している。その後は大小の仕事でちょこちょことお世話になった。
一番印象的なのは「新刊ニュース」誌での荒木経惟さんとの対談だ。荒木さんの全集刊行を記念しての対談で、「どうせ対談するなら若い女の子がいいなぁ」という荒木さんの希望がありあまりさんにお願いした。
その後、僕は別の編集部に異動になり(「部」といってもともにワンオペ)、疎遠になってしまった。
再会できたのが10年近く経った2003年の9月。つまり15年前。ここで「15年」が出てくる。あまりさんが漫画家の遠野一実さんと組んだ「Girlish」という本をフィーチャーしての二人展のご案内をいただき、行ったのだ。
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その日のブログが出てきたので長いうえにクソ文で恥ずかしいけど引用。ま、ブログってのはこういうときに便利だよね。恥ずかしいことも多いけど、まぁしょうがないや。
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2003-09-23 Girlish 「林あまり+遠野一実」展
今日は北青山の「ギャラリーハウス MAYA2」に「Girlish 林あまり+遠野一実展」を見に行った。 歌人の林あまりさんの短歌に漫画家の遠野一実さんがイラストを描いたコラボレーション。女性漫画誌「コーラス」に連載されていたものだ。
なかなか工夫に満ちた展覧会で、ひとつのフレームに、林さんの短歌とコラム(原稿用紙)と遠野さんのイラストを組み合わせてセットし、それの隣に雑誌に印刷されたものを展示する、という試みやプロジェクターによる映写などもあった。特に3枚のOHPシートに背景、イラスト、短歌をプリントしそれを重ねた効果を見せる展示などはすごく面白い。夕焼けの写真をプリントしたシートの上にティーカップに腰掛けた女性を描いたイラストをプリントしたシートを重ねる。その上に短歌をプリントしたシートを重ねる。そうすると作品が出来上がるという趣向だ。
林さんとはずいぶん久しぶりにお会いしたけれど全く変わっていなかった。むしろ10数年前初めてお会いした時よりも溌剌として若々しい印象を受けた。
林さんの歌は本当にいい。誰にも真似ができない世界。ベタな言い方をすればナンバーワンを目指すのでなく、オンリーワンの立場を築いた歌人だと思う。ご案内はがきにあった作品だけど
あつあつの缶の紅茶をしのばせて 会いに行く夕 秋のはじまり
なんてどうよ。いまの季節の気分にぴったりじゃないですか。小走りに舗道を行く女性の後姿までが見えてくるような・・・・。
それに絵を合わせた遠野さんもすごい人だと思う。カリカリと細いペンで描いたエッチング調のタッチもあれば、水墨画風にホワッと描いたものもあり変幻自在だ。
このお二人、もともとお友達だったわけではなくて、編集者の企画により出会ったそうだ。偉い。編集者がいい仕事をしている。
何時間でもいたい様な奥行きのある素晴らしい展覧会だった。
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2003-09-24 手書きの文字、そして人生
昨日の「Girlish 林あまり+遠野一実展」の話の続き。
林さんがおっしゃっていたのだが、林さんは「書くのが好き」という。そりゃ歌人で、エッセイストで、作詞家で、劇評家なのだから当り前じゃないかという人があるかもしれない。僕もそう思った。
でもこれはそういう意味ではなくて、「ペンで紙に書く」というアクションが好きなのだとか。逆に「どういうことを書こうか考えることは苦手」と言ってコロコロと笑う(もちろん謙遜。そんなことはないのは言うまでもない)。
当然、短歌はもちろん、エッセイの原稿も手書きだ。
やっぱり短歌を詠む方は手書き派が多いんですか?
と聞くとそうでもないらしい。ワープロ、パソコンに入力してあると歌集を編む時に便利なのだ。
というのも、歌集というのは作品の並べ方によって全体の印象がガラリと変わってしまう。ワープロ、パソコンに入力してあると何度でも並び替えが可能で、プリントアウトした活字だと客観的に見ることが出来るのだという。
「最初が明るい歌でも最後に暗い歌を持ってくると全体が暗い印象になりますし、最初が暗くても最後が明るいと全体が明るく前向きになるんですよ」
なるほど。
手書き派の林さんは短冊状に切った紙に歌を書いて床に広げて並び替えをするそうだ。
会場にも林さんの生原稿が展示してあった。作風そのままの読みやすくたおやかで、それでいて力感のある筆跡だった。
会場内にはたくさんの美しい生花があった。お友達からのプレゼントだ。一番目立っていたのは、みちのくプロレス・「新崎人生」氏からのものだった。
林さんが格闘技好きなのは、実は凄く有名である。
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退職し、ビブリオを開業してからも「林さんはどうしておられるかな」とぼんやり思うことは多かった。名刺の住所に手紙を書いたこともあったが転居先不明で戻ってきた。お勤め先の大学に手紙を出したこともあった。そしてテレビで坂本冬実が「夜桜お七」を歌っているのを見るたび家族に、
「この曲の作詞はワシの古い知り合いでな・・・」
と繰り返しては「それ、何度も聞いた」とさえぎられた。
それがだ。冒頭のブログ。知り合いの劇評家のフェイスブックのタイムラインに林さんのお名前があったのだ。そうかその手があったか。っていうか自分、毎日どれだけフェイスブックやっているのよ。迂闊にもほどがある、気づけよ。すぐさま、前のめりのメッセージを発信。長い年月がたっているのに覚えていてくださって大感激。そしてメールを数往復。
そうしたら今日の昼間、メールをいただいた。今日の夕刊に短歌が五首掲載されるというのだ。
これは見逃せない。19時の時報と同時に店を閉め、駅のニューデイズに急いだ。普段は駅まで3分かかるのに2分55秒くらいで行かれた。そして買ったのがこちら。
上で触れた何往復かのメールで林さんが先年、お母様を見送られたことを知ったばかりなのでより、心に響いた。
特に五首目の「若かった・・・」はその場面がまるで映画のように想像できた。少女のようになった母をやさしく見つめるあまりさんの柔らかな表情までもが眼前に浮かんできた。
これを母の没後の夢と見る解釈もできる。亡くなった人の夢というのは見ている最中も夢から覚めたあともどこか甘美で、そして切ない。
また、老いて少女に戻ってしまった母との風景と見ることもできる。いずれの解釈も作者の視線の優しさが印象的で読者の心に平安を与える歌だと思った。何度も読み返してしまった。時に声に出して。
林あまりさん。お若い頃の大胆過激な歌も素敵だけど、今、年輪を重ねた歌もすばらしい。インターネット上とはいえ再会できて本当にうれしい。
もし、このブログの読者さんで林あまりさんの短歌に興味がある方は、著作は比較的入手しやすいのでぜひ手にとってご愛読いただきたい。
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