藤井輝明著『運命の顔』

2004年第1号の読書感想文である。他にも読んではいるんだけど入手困難な本は除外しているのでといつものいいわけ。

  この『運命の顔』は、生まれつき「血管腫」という顔に痣と腫れができる難病を負ったにも拘らず、前向きに自分の力で運命を切り開いていった一人の医療人の半生記である。

  目次を紹介しよう。
[目次]
“ふつうの顔”に生まれて;やい、バケモノ!;転校先で待っていた不思議;どうしてこんなに忙しいんだ?;中二の夏、突然顔を襲った激痛;いつか顔が爆発するかもしれない;左手が不自由な教授との出会い;君のような顔の人は雇えない;人生を大きく変えた出来事;藤井君は、うちのホープ!;看護の世界へチャレンジ;一日最低五時間は勉強しろ!;大学院に進めば、もっと世界が広がる!;夢にまで見た博士号の取得;京都政経塾で開眼したこと;もし、あの人と結婚していたら……;助教授、そして教授へ;暖かい励ましと心無い中傷のはざまで

  
  とにかく大変な努力家だ。顔のことでイジメや差別に遭いながらも、両親や恩師の励ましで自分を磨き高めて現在、熊本大学医学部の教授を務めている。それも生まれながらに勉強ができるエリートで・・・・というわけではない。

  ネタバレしない程度に著者の略歴を抄録しよう。平凡な公務員の家に生まれ、地元の小学校に入り、イジメが原因で私立に転校。孟母の導き励ましシゴキもあり、文武で自らを磨く。浪人して私大の文系を卒業。
  その後看護系の短大に入りなおし、筑波で修士、名大で博士。その間に松下政経塾に学び・・・・。一歩ずつキャリアアップし、今は国立熊本大学医学部で看護学を教えつつ幅広い社会活動を行っている。

  かといって全然、修身くさくない。やさしく淡々とユーモラスな語り口。ちょっとトボケた味わいがありつつ、時折見せる熱い情熱・・・。素直に「俺もがんばらなくっちゃな」と思える本だ。



  実はこの本、ツマが買ってきた本だ。年末に息せききって本屋さんからこの本を抱えて帰ってきて、

「ねぇ! この本! 私この著者の人知ってるの 」
「この前、コンビニで知り合ったの(中坊かよ?)」

  コンビニにコピーをしに行ったら急に故障して、そのときこの藤井さんもコピーに並んでいて、一緒に困った仲なのだそうだ。


  ふーん、そうなんだ、といいつつ僕も知っているのだ。といってもこちらから一方的なんだけど。実はこの藤井さんは僕の幼稚園の先輩に当たる(三歳年上だから重なってはいない)。つまり国立っ子なのだ。現在は熊大教授なので、ツマがコンビニであったときはお里帰り中だったのだろう。 


  一年間だけ通った地元の学校と言うのも僕の母校だ。僕が入学した時にはもう転校されていたが、僕の通学路上にご自宅があって、あちらは小中高一貫教育なので6年間にわたりほぼ毎朝すれちがっていた。きっと無遠慮な視線を投げかけていたのだろうと申し訳なく思う。
  
  そして、3,4年前新聞でお見かけした。看護師を育成する仕事をしながら数々のボランティア活動をされている活動を紹介した記事だった。その後、意識していたら共著が多いが結構頻繁に本を出版されていことがわかった。

  この本が出たのは去年の10月。もちろん知ってはいたのだけど、「徳育っぽい本なんじゃないかな」と思って食指が伸びなかったのだ。

  でもこの本がそんな修身くさいものではないことは上で述べたとおりだ。買って来てくれたツマに感謝している。

  うれしいことにルビつきだ。小学生でも読める、いや読んで欲しいと思う一冊だ。


藤井輝明著『運命の顔』(草思社・本体1,500円)


『運命の顔』