「バーティミアス」ふたたび

今、もっとも幸福なお父さんの一人である方の話である。

 金原瑞人さん。法政大学教授にして児童文学者。そして超・売れっ子翻訳家。
  

 このたび愛娘・ひとみさんが「蛇にピアス」で芥川賞を受賞された。

 おめでとうございます。

 さて、最近での金原さんの翻訳の大作がジョナサン・ストラウド著「バーティミアス」(理論社)。僕もほれ込んでいる小説だ。12月17日の日記にも感想を書いた。
  
 先日、といっても去年だが、読後の感想文をメールで送った。悪い癖の長くてくどいメール。そうしたら金原さんが気に入ってくださって、ご自身のメールマガジンに全文掲載してくれた。

 金原さんのお許しを得てその「メルマガ」を全文掲載。文中「××」は金原さんによる伏字。「▲▲」は蕃茄による伏字である。また文中の本名もHNに変えさせていただいた。

     (以下、金原瑞人さんのメールマガジン)
 



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訳書が何冊か出たので、そのあとがきを。
  まずは『バーティミアスサマルカンドの秘宝』(理論社)。原稿用紙で
約1000枚。長い。  (中略)  まあ、とにかく、めっぽう面白いファンタジーである。  (中略)  早くも心強い感想が送られてきているので、そのなかから「あ、そうそう、そうなんだよ!」といいたくなるメールをご紹介しておきます。

  差出人は▲▲の蕃茄山人さん。大学時代、▲▲の歌舞伎研にいたというので、ずいぶんと意気投合してしまった(といっても、金原は▲▲の歌舞伎研にはいなかったのだが)。で、その蕃茄山人さんの感想をまず。
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「報告が遅くなりましたが、「バーティミアス」拝読いたしました。実に面白かったです。スピーディーな展開と小気味のいい文体にやめられないとまらない、でした。さっそくホームページの日記にも書かせていただきました。でもネタバラシしない程度のことしかかけませんでした。よろしかったらお読みになってください。
 
 ではそれ以外の感想を述べさせていただきます。
 僕はどちらかというとハードボイルド小説的に楽しみました。チャンドラーとかハメットや、関川夏央原作・谷口ジロー画の「事件屋稼業」シリーズの感じです。
 (あっ今、思いつきました。「エースのジョー」の感じなのではないでしょうか。「チッチッチッ(人差し指を振りながら)、お嬢さん、火傷するぜ」みたいな……凄みと愛嬌。そしてどこか一本抜けたところ)
 
  それで「バディ(相棒)もの」ですね。
  ユーモアハードボイルドに置き換えてみると、ナサニエルはいわば謎の多い美少女の依頼人(億万長者の相続人)、バーティミアスは裏町の飲んだくれの中年私立探偵。でも兵隊上がりでケンカはメチャ強く、ひたすらタフ。はじめは反発しあうけどいつしか認めあい信じあうことで最強のコンビになって行く、というような感じでしょうか。

  とくにバーティミアスは本当にいいキャラクターです。僕はかなり感情移入しちゃいました。
 ナサニエルのキャラもいいですね。言ってみればネクラなオタクですよね。自分の関心のあることにはひたすら深く掘り下げるのだけど、関心外のことでは全くの不見識。イマドキの中学生っぽくってリアルでした。この少年にも自分を見る部分があって結構感情移入しちゃいました。
 
 それからもしかしたらこの作者の方は、日本のアニメやマンガを研究されているんじゃないかなと思う部分もありました。

1. バーティミアスがアミュレットを盗んだ後、町で謎の少女たちに追われるシーン。僕はここに大友克洋の「アキラ」の世界を見ました。

2.師匠の家が破壊炎上するシーン(まさか××××が本当に××とは思わなかった。ショック!!)。これも同じく大友の「童夢」を彷彿とさせました。

3.最後の××××の登場と退場。ここには宮崎アニメのやっぱり最高傑作「風の谷のナウシカ」のエンディング、「巨神兵」の再生と破壊を感じました。
 
 主人公二人以外ではフェイキアールがいいですね。凄みが効いて、そして粋で。
  
  勝手なことをいろいろいってすみませんでした。本来、僕などはこういうファンタジーからは門前払いされちゃう層なのかもしれませんが、この本は、本当に楽しく読めました。続編が楽しみです」
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  文中の××××は、ネタがばれないように、伏せておいた部分。なんか、ぼくのあとがきなんかいらないくらい、この作品の特徴をよくつかまえていて、感心してしまった。そう、この作品の構成、雰囲気、テンポ、展開などなど、たしかにハードボイルドの感じは強いと思う。(後略)

  
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 (以上、金原瑞人さんのメールマガジン)

  
そんなわけで、メチャ面白いファンタジーです。おすすめです


バーティミアス