麹町のウルトラマンと百鬼園先生の鰻
さっき「水戸黄門」を見ていたら黒部進が悪代官の役で出ていた。
ご存知、初代・ウルトラマンである。それにしても黒部進・・・・、プロジェクトXみたいな名前である。
僕は子どもの頃の数ヶ月、千代田区は麹町で暮らしたことがある。子どものことで近所の子達とはあっという間に友達になれた。戦後の匂いの残る長屋の子どもたちが多かった。土門拳の世界だった。その中に1人、妙におっとりした大人(たいじん)の風のある子がいた。みんな一目おく存在だった。近所の鰻屋の孫とのことだったが、その店が内田百鬼園先生ご愛用で作品にもたびたび出てくる名店「A」だと知ったのは、百鬼園先生を読むようになった30歳過ぎのことである。
で、ウルトラマンの話だったね。路地でみんなでケンケンパかなんかして遊んでいたときだったと思う。伝令が飛んできた。
「あそこの店にウルトラマンがいる!!」
路地の中ほどに小奇麗で小体な小料理屋があった。そこでウルトラマンが飯を食っているとのことだった。
駆けつけると、確かにいた。窓際の席で食事をしていた。日本テレビの近くである。何かの撮影の途中だったのだろう。
窓に悪ガキがたくさん貼り付いてるのを見た黒部氏は、苦笑してブラインドを下ろしてしまったのだった。そりゃそうだよな、ゆっくり食べられたもんじゃない。
あれから幾星霜、友達がたくさん住んでいた長屋はとうになくなってしまった。路地ごと大きなマンションになった。ほとんどの家が多摩ニュータウンに引っ越していった。「うち多摩ニュータウンに行くんだ! 新しくてきれいなんだよ」と嬉しそうに言っていたユカちゃんの笑顔が目に浮かぶ。
僕が寄宿していた祖母の店も無くなってしまった。つい最近だが日本テレビも移転してしまった。
鰻の「A」・・・・って何も仮名にすることはないね、「秋本」だけが往時と変わらぬ姿で健在である。