浅沼一彦からの手紙

中学時代の同級生、浅沼一彦から暇乞いのメールが来た。僕と一緒にFM国立を世に広めた仲間だ。
堅気じゃないから実名。気鋭の演出家だ。この2月に演出した床嶋佳子主演「緑のかげのなかへ」は、それはもう素晴らしかった。


国内の大仕事も一段落して、どうもしばらくヨーロッパに行くらしい。

大学時代もこういうことが幾度かあった。どこぞにある幾多のサーファーの命を呑み込んだ危険な波に乗りに行く(サーファーだった)生きて帰ってこないかも知れないと言って旅立ち、3日くらいで元気に帰ってきたこともあった。

また、牧場で働くことにしたと言って暇乞いに来たこともあった。その時は本当に数ヶ月牧場で働いてきた。本人は牧童をやってきたと言い張っていたが、日本に牧童と言う職業はあるまい。それでも隣りの牧場との地境を巡る争いは西部劇さながらで面白かったらしい。

この時は餞別に坂本九全曲集のカセットテープをあげたのだった。故郷から遠く離れた原野での無聊を慰めるには最高だったと帰ってきてから言っていた。「見上げてごらん夜の星を」を聞きながら夜空を見上げ涙したらしい。

今回はメールをくれたのが出発前夜だったので何も餞別を渡せなくて残念。お互い四十代も半ばになったことだし、『百鬼園随筆』でも渡したかったのだが。