朝、国立駅。電車に乗り込もうと思ったら、胸ポケットの携帯電話が鳴った。
ツレからだった。なんだろう、急に・・・・・・。
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ことの発端は昨日の雨だ。駅を降りて神戸屋の角を曲がったところで、テノールの歌声が聞こえてきた。
「雨が〜、小粒の真珠なら〜〜」
見ると、軒先で歌っているのはそのビルの地下にある喫茶店のマスターだった。独特の濃いキャラが大人気の国立の名物男だ。
つられて僕も、
「恋は〜、ピンクのバラの花〜」
と歌い上げた、というのは嘘で、小さく口ずさみながら家に帰った。でもなんて歌だったっけ?
ダイニングで遅い夕食をとりながら、「雨が〜、小粒の真珠なら〜〜」と歌うと、ツレが、
「恋は〜、ピンクのバラの花〜」。
と続けた。で、なんて歌だったっけ?
暫く頭を捻ったのだけど、二人とも思い出せない。うなっても思いだせない。そのうち日付が変わったので、あきらめて寝た。
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一夜明けて・・・・。今ひとつ冴えない表情のツレの顔を横目に見ながら慌しく家を出て、国立駅。電車に乗り込もうと思ったら、胸ポケットの携帯電話が鳴った。ツレからだった。
「橋幸夫の『雨の中の二人』!!」
弾んだ声が響いた。そうか、『雨の中の二人』かぁ。橋幸夫かぁ。
スッキリした気持ちで、一本あとの電車に乗り込んだ。