遠藤芳男編著『改訂 卒業 ―高校生に詩を書かせた先生―』(駒草出版)

今、遠藤芳男編著『改訂 卒業 ―高校生に詩を書かせた先生―』と言う本を読んでいる。古くは70年代の半ば、新しくは2008年の定時制の高校生たちの詩を集めた本である。


卒業


編著者・遠藤芳男はこの春、卒業した。三十有余年に及ぶ教員生活を、少なくないであろう複雑な思いとともに。

国語教師である遠藤はその教員生活において、授業の中で生徒たちに詩を書かせてきた。自己の成長過程を記録する表現方法としての詩に着目したのだ。だからこの本に収載されている詩はすべて遠藤の直接の教え子たちの詩だ。


芸術的高みを目指そうと言うのではない。だから稚拙と言えば稚拙だ。しかしその荒削りの叫びは技巧を超えた力を持っている。すべて直截的な言葉でつづられ、それだけに胸にザクリと来る。何度電車の中で泣きそうになってしまったことか。


昭和・・・。集団就職で上京し、鉄工所で、生糸工場で働きながら学ぶ高校生の詩が並ぶ。故郷に残してきた親やあるいは自分を捨てた親への愛憎、ともに流転の運命を過ごし今は離れて過ごす幼い弟への思い、労働の苦しみと喜び、ともに働き学ぶ仲間たちへの友情と連帯。どれもが切なく愛おしい。


苦労して働き学びながらも、昭和の高校生はまだ明るい未来を思い描くことができた(世の中全体が「世界はこれからよくなる」と信じられていたからだけど)。僕たちはその未来社会がロクなものでは無かったことを知っているから余計に切ない。


一方の平成。昭和のような貧困こそ目立たなくはなったが、格差の溝はより深くなっている。そして明るい未来を思い描くことができない状態にいる(世の中全体が「世界はこれからよくなる」と信じていないからだ)。そんな絶望や諦観の中で「青春」を送らなければならない彼らが切ない。


しかし、詩を書くことによって生徒たちは確実に成長している。前へ進んでいる。まだまだ世の中捨てたものじゃない。僕らも若者に学ばなければならない、そう思わせてくれる。そんな本だ。



しかし・・・・、この『卒業』、去年出された初版はわずか4日目で事実上出版停止と全面回収を埼玉県教育委員会から指示された。今回ご紹介する本が「改訂」なのはそういう理由だ。そして遠藤自身も地公法第33条違反で懲戒処分を受けた。冒頭に書いた「少なくないであろう複雑な思い」とはこの件だ。


何故・・・・・。続きは明日、のお楽しみ(いや、楽しい話ではない)。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ご意見、ご希望は下の「コメントを書く」欄へ。内密な話はメール