早稲田のブティックで突然、落語会

夕方、早稲田の住宅街を歩いていたら、僕と同年輩の女性と着物姿の若者に呼び止められた。


「落語会やってます。聞いていかれませんか?」


ブティックの前である。新装開店のイベントとして、ブティックの中のギャラリーで早稲田大学落語研究会による落語会が開かれると言うのだ。



婦人服に関係ないんですがいいんですか?


と聞くとニコヤカにどうぞどうぞと招き入れてくれ、「足元の段差にお気をつけなさって」と気遣ってくれた。


25ばかりのスタッキングチェアが置かれた場内はほぼ満席。平均年齢は高い。僕よりも10歳ほど上か。ブティックだけに7:3で女性が多い。


出演は浜辺亭信号、浜辺亭海老一、心乱亭狐猫、音夢里亭盲蛙の面々。なんて読むかはわからない。多分何かの洒落なのだろう。


4席が演じられた。まあもちろん学生さんのクラブ活動なのでプロ並みというような安心感こそないが、元気があってはつらつしていていい。そしていいお客さんでコロコロと良く笑っていた。それこそ子や孫を見るような温かい視線も感じられた。



そしてその客席にはなにやらメモを取る僕がいたんだな。


落語を聴きながらメモをするなんていうのは野暮の極みで、ぜひ法律で禁止するべきだとかねてから思っている。もし僕が代議士なら議員立法するところだ。


でも今回はメモを取らせていただいた。それはこの会場がすばらしかったからだ。



ブティックの売場に隣接する12,3坪のスペース。ギャラリーと言うだけあって壁沿いの最上部にはピクチャーレールと照明のレール。フレキシビリティが高い。


出色なのが舞台。ほぼ床の間のような形で設置されている。間口1.8メートル奥行き1.2メートルほどか。戸を閉めればフラットな壁になる。舞台の高さは50センチくらい。縁側のように前に張り出した部分があるのでより広く見える。奥に京焼の(と僕には見えた)の布袋さんやガレの(と僕には見えた)ランプなどが飾ってあるが邪魔にはならない。今回は落語だったが、講談はもちろん漫才もいけるだろう。浪曲は無理だけど義太夫ならいける。長机を置けばちょっとしたトーク・セッションやセミナーぐらいは出来る。


うーん、いいなあこの会場。いろいろなことを発信できそう。町のコミュニティの核にもなりそう。国立にも、というかウチの近所にもこんなところがほしい。


それに客寄せに何か花火を上げたいお店ととにかく発表の場がほしい学生がともWIN−WINの関係となっている。


いい活動だなあと調べたら、この「Cee asquait」さん、早稲田で30年近い歴史を持つブティック。早稲田に本部を置きつつ、富山県に何店か支店を持っておられる。おそらく社長さんが富山の出身で、東京で事業を成功させて故郷に錦を飾ったのだろう、と勝手に想像。僕が富山県下の「五百石」という町にルーツを持つことは以前にも書いた通り。一気に親近感が湧いてしまった。ぜひ売上げに貢献したいが婦人服ではどうにもならない。


終演後、場内でメモの続きを書いて無遠慮に写真を撮ったりしてから外に出たら、一足先に外に出てすでに自宅前で植木に水をやっていたご婦人が、僕を見るなり、


「面白かったわねぇ」


と声をかけてくれた。黒スーツにステッキ姿はやはり目立ったと見える。ほんと、悪いことが出来なくなったなぁ。追いかけられても逃げられないし。<今日の一句>


すばらしき 産学協同 夏、早稲田


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