わが友、Tくんのうわさ - 国立駅前・ギャラリービブリオ連絡版(蕃茄庵日録別板）

ショッピングセンターの中を歩いていたら見覚えのある面影。面影というより身長。

中学の同級生のTくんだ。20歳のころの同窓会であって以来だから30数年ぶり。40年に近い。

面影というより身長。僕より15センチ以上高い。

よぉ、Tやん。

「お、おう･･･」。

彼は学校を代表する秀才の一人だったがなぜかいつも僕たちボンクラとつるんでいた。バリトンでボソッというギャグが秀逸だった。

国語の授業の中で木下順二「夕鶴」の朗読劇でヒールの「惣ど」と「運ず」をコンビで演じたこともあった。わかりやすくセコく卑怯な僕の「惣ど」と一見鈍重だがしぶとく狡猾なTくんの「運ず」は拍手喝采の大好評。授業の眼目としては一組目の僕らに演じさせたあと、二組目には丁寧な演技指導をして「二組目が格段とよくなった」を見せることだったのだがどう贔屓目に見ても一組目の僕らのほうが面白く、面目をつぶされた先生はあからさまに不機嫌になったなぁ。昔の先生は無防備に無邪気だった。

当時のT君の持ちネタ、野口雨情・中山晋平の「うさぎのダンス」の替え歌、

♪タラッタラッタラッタ裸体のダンス♪

は今でも大好き。

ひさしぶり。どうしてる?

「まぁ、なんとかな」

そうそう、こんどうちの店で昭和歌謡のライブやるんだけど･･･、とフライヤーを出しかけるとそれを制して、

「おれのうわさ聞いてるだろう」

たしかに聞いている。昭和後期を代表する人気芸人、医療漫談で一世を風靡した「セニョール・T」師匠(仮名)の付き人をしているという伝聞だ。グラッチェ、セニョリータ。

「そんなわけで全然、先の予定が立てらんないんだ。旅が多くて」

えーそうなんだ、本当だったんだ。還暦近くなってその生活はきついなぁ。オレなんか50前で大病してからすっかり老人だよ。それにしてもTやん、若いなぁ。昔とちっともかわらない。

たしかにかわらない。しかも黒の詰襟の学生服を着ている。

さすがにこの辺まで来ると如何に鈍い僕でもさすがに夢と気づく。気づいたけど久しぶりにTくんと会えたのがうれしくて夢から覚めたくなくて一生懸命話しかけるのだけど次第に返事がなくなって目の前から消えてしまい、かわりに寝室の天井が現れた。