さようなら笈田敏夫さん

朝刊に笈田敏夫さんの訃報。享年78。

元・海軍少尉の慶応ボーイで文字通りジャズシンガーの草分けだった。甘く響くビング・クロスビーばりの低音で、古希を過ぎてもスイングジャーナルのボーカリスト人気ランキングでずっと一位だったと思う。生活感をまったく感じさせないダンディそのものの人で、あんなに蝶ネクタイが似合う日本人は珍しい(道化としての蝶タイを除いて)。

役者としても活躍し、裕次郎の「嵐を呼ぶ男」では悪役ドラマー(ってのも珍しい。悪役レスラーなら聞いたことがあるが)・チャーリー桜田(この名前もメチャカッコイイね)を怪演した。


実はぼくのジャズとの出会いは笈田さんだった。
小学6年生の時、近所の一橋大学の時計台で探検ごっこをしていて足を骨折し、2週間学校を休んだことがある。足以外は元気だから家にいても退屈の極みで、本もマンガも読み尽くして、自分のレコード(アニメや怪獣ものだったと思う)も聞き尽くしたところで出会ったのが、父のレコードラックにあった「ガーシュイン名曲集」だった。

歌は笈田敏夫(指揮は紙恭輔)。冒頭一曲目は「アイ・ガット・リズム」。一発でしびれた。これまで聞いたことが無い世界に胸が躍った。足が折れてて踊れないけど踊りたくなった。

数日後、学校に復帰した僕は「♪ スワニーースワニーー ♪」と口ずさむ妙な小学生になっていた。


長い間お疲れ様でした。ありがとうございました。謹んでご冥福をお祈りします。