そういうわけで昨晩、東小金井できれいな生け花を観賞して帰り、テレビをつけたら『特命係長・只野仁』で倉石功が胸をかきむしって死ぬ瞬間だった。
この倉石功という人、僕が初めて目撃した芸能人だ。
小学生のころ我が家は自営業で、毎年の酉の市には隣町・府中の大國魂神社で熊手を買っていた。普段静かなこの神社も毎年お酉さんの時には、熊手屋さん(?)の他にもたくさんの屋台店が出て、多くの人で賑わっている。
「よぉー! しゃしゃしゃん」で熊手を買って、家族でうす暗い参道を歩いていたら母が足を止めた。
「倉石功がいる」
見ると一軒の屋台店で、紺の背広を着た背の大きいおじさんがおでんを食べていた。どうやらついさっきまで「ザ・ガードマン」のロケがあったらしい。
「ほら、サインもらっておいで」
僕はその時、倉石功という俳優を知らなかったので別にサインなど欲しくなかった。それより恥ずかしいからいやだったが・・・。
出先だったのでメモ紙同然の紙しかなかったが、倉石さんはこころよくその大きな手にボールペンを握り、サインをしてくれた。
お礼を言って、いただいたサインを持って母のところへ戻ると。
「倉石功がいるなら宇津井健もいるはず」
それからしばらく、熊手を担いだまま夜の境内を探したがキャップは見つからなかった。
さて、楽しみなのは放映だ。母はどこかから「大國魂神社の賽銭泥棒をザ・ガードマンが捕まえる、という話らしい」という話を聞きつけてきた(ホントだとしたらずいぶんとセコい事件だなぁ)。
結局、僕は見れなかった。「子どもは早く寝なさい」という母の一言である。先夜の宇津井健捜索よりもずっと早い時間であり、今考えればまったく理不尽な話であるが。
いまでも倉石功さんをテレビで見ると、アセチレンランプに逆光で浮かび上がる、大きなシルエットを思い出す。本当は白熱電球だったんだろうけど。