桜井秀勲著『戦後名編集者列伝 売れる本づくりを実践した鬼才たち』
編書房刊・1900円
まず舌を巻くのが筆者の文章の上手さだ。実に平易でわかりやすい。ちょっと複雑なこともスルリと入ってくる。それもそのはず、この桜井さんと言う人は、「女性自身」「微笑」などの創刊・編集をしてきた超ベテラン編集者だ。わかりやすさが身上のメディアに長年関わってきただけに、その文章力はさすがに只者ではない。
現在、評論家として活躍中の著者が長年の編集者としての生活の中でじかに見た「名編集者」30余人の仕事を「列伝」として伝えたのがこの本だ。古くは文春・池島信平、カッパブックス・神吉晴夫から新しくは幻冬舎・見城徹まで。
ポイントとなるのが「マス・マーケティング」。文化的、芸術的に優れた出版物を残したということだけではなく、広く大衆に受ける、「売れる商品」をつくった人を取り上げている。だからある意味「ビジネス書」としても楽しめるのかもしれない。
ただちょっと自慢話が多過ぎかな。それといわゆる「進歩的言論」へのルサンチマンが強すぎるのでちょっと鼻白んでしまうところもある。もうちょっとクールに、短く、その分細かいところの検証をしっかりとして書いたら(ところどころに「?」マークが点灯する)、もっと面白い本になったかもしれない。