そういうわけでたどり着いたのが、ゴルフ場・日吉ハイランド倶楽部の敷地内にある相生座。回り舞台やスッポン、両花道のある本格的なもの。
当日は老人慰問歌舞伎公演で地域のお年寄りを招待したイベントだった。そんなところに突然車で乗りつけた若者が行ってもいいのかと危ぶまれたが、さすがの団長・T大のA嬢が事前にアポを取ってくれていた。
すでに劇場内はお年寄りで一杯だった。前座というんだろうか、前説というんだろうか、和服姿のおばさんが二人、演歌に合わせて踊っていた。歌謡舞踊というのかな。
すでに酔っ払ったおじいちゃんが花道に上がって一緒に踊りだしたりして、もうお祭り状態で騒然としていた。
芝居の幕が開いた。演目は・・・・・。実は芝居の演目も内容も何も覚えちゃいないのである。面目ない。周辺のことはこんなにリアルに覚えているのにね。
芝居が終ったのは(え、もう終っちゃうのか)、夜になってからだった。これから帰るのも大変でしょうと支配人さんに声をかけていただき、ゴルフ場のクラブハウスに宿泊。興奮さめやらず、今日見たお芝居のことを夜更けまで話した。
翌日は、日吉ハイランド倶楽部本部に行き、社長の小栗克介氏を訪問。移築の苦労や芝居にかける情熱をいろいろ伺った。
昨日の○○役の役者さんがかっこよかったですなどと話していたら、「それ私です」と営業部長さんが立ち上がった。そう、お茶を入れてくれたお姉さんも、静かに事務を執る人たちも、颯爽とグリーンを行くキャディさんもみんな昨日は白塗りの役者だったのだ。
芝居小屋を見学させていただいた。回り舞台や奈落の下など、その貴重なものを、全く自由に見学させてくれた。もちろん初めて見るもので大興奮。
帰りの車中、
村芝居って言ってもお百姓さんが祭りに奉納するようなのじゃなかったね。
うん、みんなゴルフ場の社員さんだからね。
でもさ、日本の会社って良くも悪くも村社会じゃない? カリスマ性ある小栗村長の下、村民一丸となって芝居を作り上げるんだから、まさしく村芝居だよ。
うん、そうだね。
などと話し合った。
ちなみに、この言い出しっぺのT大のA嬢こそが、僕の日記にたびたび登場する畏友・義太夫三味線奏者・鶴澤寛也師匠の若き日の(今も若いけどね、ヨイショ)姿である。