恵比寿ガーデンプレイスにある「東京都写真美術館」で開催中の、「60億の肖像--田沼武能写真展」に行って来た。
「エソラ=キャットフィッシュ」のオーナー・マスオさんのおすすめに従っての観覧だ。あの辛口のマスオさんが、
「いままで写真展でこんなに感動したことがない」
と絶賛する写真展だ。これは間違いない。
田沼先生は言わずと知れた、現代日本の写真界の最高峰だ。写真家協会の会長だからただの重鎮かと思ったらとんでもない、戦後まもなくのプロデビュー以来、常に斯界の第一線で活躍されている。
田沼武能というと、「戦後の文士を撮った人でしょ」と言う人がいる。
「戦後の下町の子どもたちを撮った人でしょ」という人もいる。
「トットちゃん(黒柳徹子さん)と一緒に世界の紛争地の子どもを撮ってる人でしょ」という人もある。
全部正解。今回の写真展はそれらのすべての人を満足させる内容となっている。大きく分けて「戦後の子どもたち」「文士・芸術家の肖像」「人間万歳」の3部に分かれている。
「戦後のこどもたち」は田沼先生自身の生まれ育った東京下町で、ドロンコになって遊ぶ子どもたちや逞しく生き抜く戦災孤児たち。ありきたりの言い方だけど今の僕たちがなくしてしまった人間としてのパワーが伝わってくる写真だ。
「文士・芸術家の肖像」は昭和30年代から雑誌のグラビアの仕事等で撮った、小説家だけでなく広く芸術家を撮った写真だ。川端康成、小林秀雄、永井荷風、高見順、梅原龍三郎、横山大観などなど。中でも驚いたのが横山大観だ。撮影年を見ると1950年である。田沼先生、20歳か21歳である。20歳や21歳で大観を撮るポジションにいたということに驚いてしまう。
山口瞳氏の横でジャンプするヤンチャそうな少年は、正ちゃんこと山口正介さんだ。瞳先生と田沼先生の友情についてはいずれまた書こう。
「人間万歳」は主に紛争地をトットちゃんとともにたずねた時の写真が中心となっている。やはりこのパートがこの写真展の核かもしれない。被写体の多くはつらい思いをしている人たちだ。できれは目を背けたくなるような現実もある。
でも田沼先生の写真は人間をまっすぐに見つめる。奇をてらったところは全くない。そしてその視線はとても温かい。それが大きな魅力だ。見ていると「ああ、人間っていいな」と思えてくるのだ。
下のポスターの少女の写真は紛争地・シエラレオネで去年撮られたものだ。その笑顔の素晴らしさ、瞳の力を見ていただきたい。