終電の効用

先日、友人のウォルフガング(仮名・30歳ぐらい・日本人)が酔って終電で乗り過ごし、海辺の終着駅まで行ってしまったそうだ。

 上り列車はとうに終了している。そして駅前にビジネスホテルがあるような街ではない。やむなくタクシーで帰ったという。深夜料金込みで約3万円だったそうな。

「なんで終電なんてあるんだろうね。元旦からスーパーが開いているこのご時世、夜中も一時間に一本くらい走らせりゃいいじゃないか」

 と憤慨していた。まわりの連中も一度や二度は同じような経験があるものだから喧々囂々となった。

「うん、たしかに、一晩中電車が走っていれば、みんな夜通しお金を落とすから経済効果があるんじゃない? 不景気脱却には終夜運転だよ」

「でもそんなことになったら世の中、二日酔いのやつだらけになって生産性が下がって逆効果だよ」

「つぶれるタクシー会社やビジネスホテルが続出するよ。あとマイアミもつぶれるな」

 中には、

「終電がなかったら、世のカップルの半分は誕生しなかったな。出生率はさらに減少しちゃうぜ。歴史は夜つくられるのさ」

  
などと一見もっともなことを言うやつもいる。

 そうしたら通りかかったトニー・セイント(仮名・40歳ぐらい。2月10日の日記にも登場)が一言、

「終電後に保線マンが点検して回るから毎日安全に運行できてるんだが・・・」

  
 そりゃそうだ、大事なことを忘れてた。

 
 余談だが僕は生まれてこのかた40余年、終電に乗ったことがない。用心のため終電の一本か二本前には乗り込むようにしているのだ。だって乗る直前や乗ってからトイレに行きたくなったりしたら大変じゃない。だいたいにおいて「ギリギリ」というのが好きじゃない。

 だからといって「計算ずくのイヤなヤツ」と思わないでいただきたい。終電に乗ったことはないが、「終電に乗り遅れた」ことは数え切れないほどあるのである、やっぱり。