千客万来 ムジカーザ

 昨晩は夕方の便で徳島から帰京すると、うちに帰らずに代々木上原に行った。まだ、頭の中には阿波踊りの「チャンカチャンカ、チャンカチャンカ」が渦を巻いていた。

 目指すは「ムジカーザ」だ。

 ムジカーザ代々木上原の閑静な住宅街にあるキャパ100の小さな音楽ホール。
 
 今日のコンサートは毎度おなじみ、サックス・中村誠一さんとピアノ・吉岡秀晃さんのデュオ・コンサートだ。 

 僕はこのお二人のファンなのでコンサートには万難を排してうかがうことにしている。徳島行きぐらい万難のうちにはいらないのである。ライブもよくうかがっている。 

 小学校の時なんかそうなんだけど、学校から近い子ほど遅刻が多くて遠い子ほど早いよね。

 徳島から直行した僕は一番に着いてしまった。受付の前に中村さんがいて、

「嵐山(光三郎)さんは仕事で来れないかもしれないんだ。でもチエちゃんたちは来れるらしいよ」

 
とおっしゃっていた。チエちゃんというのは嵐山氏の助手で石山千絵(石田千)さんのこと。第一回古本小説大賞受賞者で、東京新聞晶文社WEBに連載を持っている新進エッセイスト・作家でもある。今年ブレイク必至、と僕は読んでいる。

 早く着いたので、吉岡さんの手元が見られる絶好の席を楽々ゲット。ワインのサービスをいただきながら、開演を待った。

 開演時間が近づき、「だんだん込んできたなぁ」と思っていたら、携帯のバイブが鳴った。見ると義太夫の鶴澤寛也師匠から。年末に、エッセイストの坂崎重盛さんに連れて行ってもらったお店の電話番号についての御下問だった。 

そんなの出先でわからないよ、と返信を打ちかけたら、後ろのほうから、

「蕃茄サン、蕃茄サン」

の声。ええ? 誰だろうと思って振り向くと、なんとその坂崎重盛さんが後ろの方の席で手を振っていた。

 何たる偶然、と後ろのほうに行ってご挨拶。

「嵐山先生は来られないらしいんです。チエさんは来られるらしいんですけど」

なんていっていたら坂崎さんの後ろからチエさんがピョコンと顔を出して、

「いまーす」

と、小さく手を振っている。隣にはテレコムスタッフ(番組制作会社)の岡部代表がおられた。

「あっどうも!! お久しぶりです、岡部さん。って先週お会いしましたね」

 そう、ほんの6日前の日曜日、渋谷に「ジョゼと虎と魚たち」を見に行くとき、乗り換えの新宿駅の山手線ホームで偶然お会いしたのだった。


 寛也師匠から御下問があった件を坂崎さんから伺い、席に戻って下を向いて返信メールしていたら、頭の上の方から、

「こんばんは」

の声。藍色の着物姿のきれいな女性が微笑んでいる。

 一瞬、どなただかわからず失礼してしまった。お隣に立っておられた方の顔を見てわかった。イラストレーターの南伸坊さんだ。ということはこの着物の美人は奥様の文子さん。シンボーさんの著書『本人の人々』『歴史上の本人』等のカメラマンにしてスタイリストにして影のプロデューサー。普段はモノトーンのロングスカートというスタイルの印象が強いので、すっかり見違えてしまった。

 なんがご本人はおられないのに、いつもの嵐山一家が揃った感じだ。


 そうこうしているうちに開演時間が来た。場内は満員だ。

 ああ、開場から開演までの30分間にこんなに字数を費やしてしまった。僕の話は冗長でいけない。反省。コンサートのレビューについては明日。