「永遠の薔薇 中井英夫へ捧げるオマージュ展」

さて、今日は、3月4日の日記で予告したとおり、「品川アトレ」に行って来た。なんかよくわからなかったな、こんでて。

以上、アトレの感想であります。


本当の目的は、「永遠の薔薇 中井英夫へ捧げるオマージュ展」という展覧会だ。「『虚無への供物』刊行40年記念企画」というサブタイトルがついている。会場は高輪のギャラリー・オキュルス。


中井英夫をご存知だろうか。短歌雑誌の名編集者として寺山修司中城ふみ子塚本邦雄を世に出した後、小説『虚無への供物』で衝撃的なデビューを果たし、推理小説の枠を大きく超えた幻想文学の泰斗として高く評価されていた作家だ。1993年に71歳で亡くなっている。

今年は丁度、デビュー40年。それを記念してのオマージュ展がこのイベントだ。中井氏を愛する作家が集まって、中井氏の世界をそれぞれの作品に表現し、出品している。その陣容たるや豪華さに驚いてしまう。

出品者は、梅木英治、喜国雅彦今道子、佐中由紀枝、多賀新、竹本健治建石修志司修楢橋朝子畑農照雄、坂東壮一、藤田新策、本多正一間村俊一森山大道、山下陽子、山本美智代、渡辺東、そして人形師の石塚公昭さん。

僕は石塚さんからご案内をいただいた。石塚さんは中井英夫の人形2点とオイルプリントを2点出品されている。

キュレーターは本多正一さん。中井氏の最後の助手としてその最期を看取った方だ。


秋口にこの企画が持ち上がったときに石塚さんからお話を聞いていた。その時に本多さんのお名前が出た。

「あ、その人、僕逢ったことある・・・・」

そうなのだ。その時思い出したのだけど、僕は10数年前に一度だけ本多さんにお会いしている。でもどこでどういう状況でお会いしたかは思い出せなかった。

数日後、石塚さんからメールをいただいた。

「本多さんに“蕃茄って人、知ってますか?”って聞いたら、“蕃茄山人さんでしょ”ってフルネームで覚えておられましたよ」

す、凄い記憶力だ。



いつものようにいささか前置きが長くなった。そういうわけで「永遠の薔薇 中井英夫へ捧げるオマージュ展」に行って来た。

会場は品川駅から徒歩7、8分。衆議院宿舎の向かいにある。

そんな広くはない会場に作品がぎっしりと並んでいた。入口近くにホームページのギャラリーで拝見していた中井英夫人形2体が展示されている。実物を見るのは初めてだ。

凄い。似ていることにも驚くが、そのメガネの奥の瞳だ。まさしく虚空を凝視している。目が合うとちょっと怖い。中年期と晩年の2体なのだが、顔だけでなく体型の変化も実に繊細に表現されている。

オイルプリント作品も凄い。オイルプリントについてここでは説明しきれないのだけど、今この技法は石塚さん以外に使える人はほとんどいないという貴重なものだ。珍しいというだけでなく、出来栄えもすばらしい。中井人形をその作品世界にふさわしい場所に立たせ、その写真をオイルプリントに加工している。この質感というのはやはりリアルで見ないとわからない。しっとりと深みのある色艶が美しい。

その他の作品もどれもすばらしく、書きたいこともたくさんあるのだがきりがない。ただひとつをあげれば、僕は佐中由紀枝さんの絵画に福島泰樹さんが賛をつけたのが凄く気になった。先日、2月10日に絶叫コンサートに行ったばっかりなので、とくに興味深かったのかもしれない。


たくさんの作品をためつすがめつ見ていたら、後ろから

「蕃茄さん・・・・」

と声をかけられた。振り向くとスーツ姿の颯爽とした紳士。

「本多です」

あ、あーお久しぶりです。いえあの石塚さんからお話うかがって、あの10何年前にお会いして、いつだったかどこだったか・・・・(しどろもどろ)

「亡くなった藤原マキさんの個展の時に北冬書房高野慎三さんに紹介していただいて。渋谷のアート・ワッズですね。そのあと居酒屋に流れて・・・・」

そう。そうだった。もう10年以上前になる。そのころは学生っぽい感じもある青年だったが、すっかり立派な紳士になられて見違えてしまった。

それにしても凄い記憶力だ。その凄い記憶力で書かれた本が2点ある。中井英夫氏に興味のある方はぜひ。

「彗星との日々 中井英夫との四年半」(光村印刷・2,000円・1996年2月)

プラネタリウムにて 中井英夫に」(葉文館出版・2,000円・2000年2月)


実に面白く見るところがたくさんある展覧会だった。10日の水曜日までやっているので、中井文学のみならず、幻想文学、ミステリーに関心ある方はぜひ。

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「永遠の薔薇 中井英夫へ捧げるオマージュ展」

2004年2月29日 (日)〜3月10日 (水)
午前11時00分〜午後6時30分

第一会場 ギャラリーオキュルス
東京都港区高輪3−10−7
tel 03−3445−5088
都営浅草線高輪台駅下車3分 JR品川駅下車10分

第二会場 書肆啓祐堂
東京都港区高輪3-10-7