21世紀のひめゆり

全然、勉強家のほうじゃないんだけど、どうせ行くならある程度、事前学習して行った方が断然楽しめ、理解が深まることぐらいは知っている。

「いや、何の先入観も持たずに行って虚心に肌で感じるほうが良いんだよ」

という意見に耳を貸さぬではないけれど、僕には何の先入観も持たずに行って虚心に肌で感じる能力はないので、ちょっとは勉強することにしている。

  今回、沖縄に行くに当たって読んだのが気鋭の大宅賞作家・小林照幸のノンフィクション『21世紀のひめゆり』だ。

21世紀のひめゆり


   沖縄の「ひめゆり部隊」を知らない方はいないだろう。

   でももうすでに間違い。「ひめゆり学徒隊」が正しい。それも戦後つけられた名称だと言う。そもそもは沖縄師範学校女子部、沖縄県立第一高等女学校の2校が同じ敷地内に建っていたのが始まり。一高女の「乙姫」、師範の「白百合」、ふたつの校友会誌をあわせることで「ひめゆり」ということばが生まれ、「ひめゆり学園」と称せられるようになった。だから「ひめゆり」と言う名の植物も存在しない。

   1945年3月、激戦の沖縄で「ひめゆり学園」の生徒、320余名は日米両軍が激突する戦場へ動員された。それが「ひめゆり学徒隊」だ。その多く、13歳〜19歳までの219名が死亡した。

   この本は「ひめゆり平和祈念資料館」で戦場での体験を語りつづける宮城喜久子さんと、記録映像の「1フィート運動」を通じて沖縄戦の実相を伝えていく中村文子さん、ふたりの「ひめゆり学園」卒業生の人生を縦糸に、沖縄の戦後史を横糸に織り上げたものだ。   

  「殉国の乙女たち」みたいな安易な美談仕立てにされがちだが、そのかげに隠された「人間が人間で無くなる」沖縄戦の真実。また「基地には反対です」だけではすまされない、世界情勢に翻弄され続ける戦後の沖縄の複雑な姿が活写されている。
 
   実に丹念に丁寧に話を聞いたことがうかがわれる本だ。そして2004年の3月だからこそ読みたい本だ。そして「ひめゆり平和祈念資料館」で宮城さんの話を生で聞きたいと思った。

   実はこの本が出たのは2002年の11月。僕が前回沖縄に行ったころだ。沖縄行きに向けて買っていたのだが、つい読みそびれていた。それが今回の沖縄行きがきっかけとなって、ようやく読むことができた。

   この著者には他に、「琉球弧(うるま)に生きるうるわしき人たち」、「海人(UMINCHU)」など沖縄を舞台にした作品が多くある。続けて読んでみたいと思った。  

小林照幸著『21世紀のひめゆり
毎日新聞社発行・税込価格 1,890円