東京〜奄美 損なわれた時を求めて

今までこの日記にはあまり書いてこなかったけど、僕は中国が好きだ。どのくらい好きかというとソートー好きだ。古い話だけど、新婚旅行も中国に行った。その後もチャンスがあるごとに行っている。

  好きになったきっかけはいろいろあるのだけど、大きなきっかけの一つが「中華人民生活百貨遊覧 」(新潮社とんぼの本) だ。もう20年も前に島尾伸三潮田登久子夫妻(ともに写真家)が出した本。この本が今も続く僕の「中華熱」の原因のひとつなのだ。潮田さんの写真展のことは暮れに日記に書いた。

  その旦那様の方、島尾伸三さんの父上が故・島尾敏雄氏(作家)であることは良く知られている。

  島尾敏雄氏の『死の棘』をお読みになったろうか。夫の「情事」によって心を病んだ妻と、その攻撃にさらされ翻弄されていく夫と子どもの姿を描いた傑作だ。この事件によって一家は東京を捨て、妻の故郷である奄美大島に移り住む・・・。この翻弄される子どものモデルが島尾伸三さんだ。この一連のことを子どもの視線から『月の家族』という作品に書いている。


  今回の新著『東京〜奄美 損なわれた時を求めて』はそれに連なる作品。現在暮らす東京から母なる島・奄美に向かってフィルムを逆回しするように旅をした様子を描いたフォト・ロード・エッセイだ。

東京〜奄美 損なわれた時を求めて

  追憶というものはせつない。記憶が甘美なものであってもせつない。つらいものでもせつない。そのせつなさを繊細な文章と叙情的な写真で表現している。少年時代に笑い会った今は初老の域に入りつつある仲間たちの変化がせつない。妻の潮田さんへの愛情がせつない。

  それからこの本はなんか懐かしい匂いがする。ものの喩えじゃなくってほんとに匂うのだ。ちょっと膠をいぶしたような(?)匂い。

  これからもずっと大事にして、鼻の奥をツンとさせたい一冊だ。


島尾伸三『東京〜奄美 損なわれた時を求めて』
河出書房新社・¥1,890