モスクワの雨は摩天楼に降る

 昨日のことではあるが文京シビックタワーに行って来た。つまりは文京区役所だ。

  商談があって夜7時に25階展望室で待ち合わせ。さすがに大した絶景だ。東京中が一望できる。まだ夜も早いので街の明かりが眩しい。

  摩天楼からの夜景を見下ろしていると、自然とビリー・ジョエルの「ストレンジャー」のイントロが口をついてハミングで出てくる。ピアノから口笛に移り主旋律へ。ここで油断をするといつの間にか寺尾聡の「ルビーの指輪」になってしまう。ご用心。
  ようやくストレンジャーに引き戻してもまた油断すると西城秀樹の「ギャランドゥ」になだれ込んでしまう。ご用心。

  それにしても平日の夜7時、人なんかいやしない、誰ともすれ違わない。

  人っ子一人いないガラスの回廊を、コツコツと響く自分の足音だけを聞きながら歩いていると、なんとなく某国のスパイのような気分にもなってくる。これからマイクロフィルムの受け渡し(古いね、どうも)があるような・・・。

  向こうから黒いコートを着た背の高い男が現れて、

「モスクワの雨は?」と問うたら、

「細く冷たい」

と答えようと思って待っていたが、いっかな現れない。


  一人でのスパイごっこに飽きて、西方、神楽坂方面を見たら勤務先の社屋が小さく見えた。

  「おおっ」と思って、大きく身を乗り出して写真を撮っていたら、某国スパイならぬ商談相手が現れた。

  「蕃茄さん、なにやってるんですか?」

   あ、いや、ほんの諜報活動。