これはまた可愛らしく美しい本が出たものだ。ちょっと表紙を見ただけでも甘酸っぱい気持ちになってしまうよね。一冊丸ごと「小梅ちゃん」の本である。
「小梅ちゃん」については解説はいるまい。ロッテのキャンディだ。発売以来早30年、いまや国民的キャンディと言ってもいいだろう。
いや違った、それは「小梅ちゃん」じゃなくて「小梅」の話。
「小梅ちゃん」はそのキャンディのイメージキャラクターの名前だ。キャンディの商品名はあくまで「小梅」。でもいまやキャンディの小梅を見た人の8割以上が、
「あっ! 小梅ちゃんだ」
というくらい(蕃茄庵調べ)の強い印象を植え付け定着している。いくらNOVAうさぎが人気があるとは言っても、NOVAの看板を見て、
「あっ!NOVAうさぎだ!」
と言う人などいない(この譬え、ヘン?)。
キャラクターデザインは言わずと知れた林静一さん。現代美人画の第一人者だ。
この本は林静一さんの描き下ろしイラストに、豪華執筆陣が「小梅ちゃん」へのオマージュとリスペクトを捧げた一冊だ。
第一部が吉元由美さんの「小梅恋物語」。パッケージに書かれていた「小梅恋物語」のショートストーリーを集めて再構成した中編小説だ。これぞ純愛というもので、内気だけど背筋がピシッと伸びて潔い小梅ちゃんの初恋と成長がリリカルに描かれている。美しいイラストと併せて涙腺を緩ませる素晴らしい作品となっている。電車の中では読まないほうがよいかも。
第二部は、「もうひとつの物語」と題されている。谷村志穂さんの掌編、林あまりさんの短歌などで構成されている。
谷村さんの「約束」もいいなぁ。いくらか現代的でオトナっぽい小梅ちゃんがいきいきと描かれている。林さんの日本画作品との調和ももの凄くいい。
あまりさんの短歌がいいなぁ。
ほほえんだ顔をうつしてみたけれど恥ずかしくなり伏せる手鏡
そのひととすれちがいざまふと匂う すこし遅れて咲いた紅梅
なんて、どうよ。まさしく「小梅ちゃん」の世界じゃないですか?
第三部では「小梅アーカイブス」と称して、歴代CFやすべての商品パッケージを収録している。
嬉しいことに全ページオールカラーだ。やっぱり林さんの絵はカラーで見たいもんね。
造本も美しい。細かいところまで優れた意匠が施されていて、手にしているだけでもうれしくなってしまう。しかももこのお値段。かなりお買い得な本だと思う。