(承前)
放送内容は昨日書いたようにトークとロック。CMは入らない。
かと言って某・国営放送のはずはない、NHKにこんな滑舌の悪いアナウンサーがいるわけはない。海賊局だとすぐに気がついた。
「これは凄いものを見つけたぞ・・・」
貪るように聴いた。
数時間後、「じゃ、FM国立、今日はこの辺で・・・・」と言って放送は終わった。右に振り切っていた受信メーターがパタリと左に倒れた。
「これは凄いものを見つけたぞ・・・」
FM国立と言う位だから、このパーソナリティのドラゴンあきらも国立に住んでいる人なのだろう。どんな人物なのだろうか? 俄然、興味が湧いて来た。
それから毎日夕方から夜にかけてはラジオの前に釘付けだった。ロックなどほとんど聴いたことない僕がちょっとしたロック通になってしまったほどだ。ロックの話や身辺雑録のほか、平凡パンチやプレイボーイのエロ・コラムの朗読などもやたら面白かった。またイタズラ電話の録音テープなどもかなりアブない面白さだった。トークから推察するにどうやら高校生らしかった。
その男、ドラゴンあきらはある夜ボソッっと言った。
「こうやって毎晩放送しているけど聞いているやつなんているのかなぁ」
(うん、その気持ち今になってよくわかる。こうやって流行らない日記サイトを運営していると同じように思う。「読んでくれてる人いるのかなぁ?」って)
続いて言った。
「かと言ってお便り募集はできないんだ。電波監理は郵政省の管轄だからね・・・」
ああ、俺がここで毎日聞いてるのに!!かと言ってこの思いを伝える術はない・・・・。もどかしい思いばかりが先にたった。
ところで、このFM国立の存在を僕が周りの人に言ったかというと、実はあまり言っていなかった。少数のごく仲のいい友達だけに教えていた。あまり大勢に知られると価値が下がるような気がしたのだ。さらに本音を言うと、ダサいやつには聴いて欲しくなかった(ホントは僕が一番ダサいのだが)。
そしてある日ドラゴンあきらはついに言った。
「もしこの放送聴いている人がいたら・・・・・、明日の夕方4時に、駅前T書店の3階に集まってくれ」
よっしゃ!! この日を待っていた。翌日の放課後、僕はFM国立のことを教えていた数少ない同級生のひとりで、のちに文学座の俳優を経て地人会の演出家となる浅沼一彦(堅気じゃないから実名)と語らって、駅前T書店に向かった。
気が急いたのでずいぶん早く着いてしまった。3時半前くらいだったろうか。3階の窓から下を見下ろしながら、
「今、入ってきたアイツかな」
「いや、今のはやけに老けてたよ。たぶん高校生だろ。それにまだ時間が早すぎるよ」
などと話していたら後ろから、
「やぁ!」
と声をかけられた。
振り向くと細身のジーンズにダッフルコートの長身、長髪のアンちゃんがニコニコと立っている。
「やぁ! おれ、アキラ。ラジオ聴いてくれてる人たちだろ? 中学生?」
おおっ、これがナゾの男の正体か。僕も答えた。
「うん。俺、蕃茄、一中の3年。こいつ同級生の浅沼」
これが僕と「ドラゴンあきら」との出会いだった。なんのことはない、先方も気が急いて早く来ていたのだ。