川柳川柳著『天下御免の極落語』

落語家・川柳川柳さんの自叙伝である。

  川柳川柳さんをご存知だろうか? 「かわやなぎ・せんりゅう」と読む。

  1931年(昭和6年)生まれだから73歳になる。いい塩梅に枯れた渋い老芸人だ・・・・・・というのはマッカなうそ。枯れることを知らないスーパー・ハイテンション老人だ。

  サブタイトルに曰く、「平成の爆笑王による“ガーコン”的自叙伝」

  オビの惹句に曰く、

「“破滅型芸人”から輝く“老年の星”へ。談志が畏れ、円生が呆れた「寄席の爆笑王」の珍談奇談を満載する。絶対放送禁止・門外不出の自作エロ噺も思い切って収録!」

 なるほど「破滅型芸人」か、巧いことを言う。でも僕は思う、「破滅型」というより「破壊型芸人」または「破戒型芸人」ではないかと。

 もう、凄いんだ、高座が。いろいろネタはあるんだけどやつぱり「ガーコン」。

 なんだかよくわからないんだけど、高座の座布団の上で腕を振り回しながら軍歌を朗々と歌うだけ歌って意気揚々と引き上げるネタ。あまりのパワフルさにあっけにとられているうちに、もうトリコざんす。

 あと、「ジャズ息子」。義太夫好きの親父の息子が道楽モンのジャズ好きで、その確執のドラマ・・・・(大げさだね、どうも)。
父 「やかましい!! せがれや、お前はいったい2階で何をしているんだ?」
息子「ジャム・セッションだ」
父 「なに? ジャム? どうりで親を甘くナメやがる」


  ずいぶん前だが約40分間、高座でジャイアンツの悪口だけを言ってたことがあった。やたらと面白くて僕は大口開けてゲラゲラ笑ってたんだけど、同行者が熱狂的な巨人ファンで、そのあとちょっと気まずくなったこともある。


  このように、破滅型というかハチャメチャな芸風の川柳さんだが出自は本格派。あのパンダと同じ日になくなった昭和の名人・六代目三遊亭円生の弟子なのだ。

  あの厳しい円生さんにこの川柳さんだ。モメないはずがない。勘気を蒙ること一度や二度ではなかったようだ。

  この本には、このへんのしくじりが細かく書かれていてやたらと面白い。

  内弟子の頃、酔っ払って褌をはずして師匠の机の上に放置し、そのあと玄関にウ○コをしたと言う事件もあったそうだ。

  まあ、そんなしくじりも愛嬌で許してもらったんだけど、1978年のいわゆる円生一門の落語協会脱退騒動の頃、決定的にしくじって破門になった。

  このへんは三遊亭円丈さんの『御乱心』と併せて読むと面白いかも。事実関係に矛盾はないのだけど、光のあて方に違いがあって興味深い。

  それにしても悲しいのは騒動の中、傷ついて自殺してしまった一柳さんだ。


  「絶対放送禁止・門外不出の自作エロ噺も思い切って収録!」とオビにあるとおり、巻末にはかなりきわどいバレ噺が載っている。

  でも「思い切って収録!」したのはあくまで出版社。川柳さんにとってはなんてこともないんだろうな。なにしろ落語会の休憩時間に自家製のエロ噺のカセットテープをじぶんで会場内で売りさばいちゃう人なんだから

  また、こういう本って言うのは聞き書きが多いんだけど、これはすべて川柳さんが実際に執筆したものだそうだ。う〜む、これは洒脱な名文家だぞ。


  ところで、僕はこの本を8月13日に浅草演芸ホール売店で買った。本屋さんで買い損なっていたのだ。

  そうしたら直筆のサイン、落款つきで、ソンブレロのイラストまでついていた。

  
  とにかく夏バテで元気のない人にもお勧めの本だ。いや刺激がつおすぎるかな。

天下御免の極落語

   川柳川柳著『天下御免の極落語』(彩流社・1800円)