鎌田慧講演「狭山事件について」

今日は池袋の書店ジュンク堂で開かれた、ルポライター鎌田慧さんの講演に行ってきた。講談社の名編集長・元木昌彦さんが主宰する「編集者の学校」の企画だ。

  テーマは「狭山事件」。この5月に発売されると同時に大きな話題になった著書『狭山事件――石川一雄、四十一年目の真実――』(草思社)を踏まえての講演だ。

  「狭山事件」をご存知だろうか。

  昭和38年、埼玉県狭山市で女子高校生・Nさんが誘拐され殺された事件だ。身代金を取りに来た犯人に接近しながら警察は度重なる失態で犯人を取り逃がしてしまい、世間の批判を浴びた。

  そして数日後、近くの被差別部落に住む青年・石川一雄さんを逮捕した。しかしこれは誤認逮捕、どころでない。人々の差別意識を強引に利用したデッチ上げ逮捕だったのだ。有罪の証拠は全くなく、無実の証拠は山ほどある(この事件ほど明らかな冤罪は他に例を見ない)。それなのに石川さんは三十余年にわたって暗い牢獄に閉じ込められた・・・。

  いままでも野間宏佐木隆三をはじめとする、色々な人たちが石川氏の無実を訴える著作を発表してきた。その中でも鎌田さんの本は仮出獄後の石川さんへのロングインタビューが貴重だ。人間の強さ、命の尊さ、そして権力の恐ろしさというものが身震いするほど伝わってくる。

  それとともに怖いのが僕たちの中の差別意識だ。石川さんをスケープゴートに選んだのはこの差別意識に他ならない。40年前のことと他人事のように思っちゃいかんだろう。今でも全国に大量の差別ハガキがばら撒かれるという事件もおきているのだ。火種は消えていない。

  講演は、この事件の話を中心に語られ、笑い事じゃない小泉政権の危険性にまで話が及び興味深かった。

  鎌田さんの本はどれも、あまりにもリアルに誤魔化すこと無しに社会(のイヤーな部分にも)を見つめている。だから、組織の歯車の一人としては、時として鬱な気分にもなりかねないので読むのに勇気が要るのだが、講演を聞いて事実から目をそらして偽りの安穏を貪ることをしてはいけないなと改めて思った。なんか小学生の感想文みたいだけど。

狭山事件

狭山事件――石川一雄、四十一年目の真実――』(草思社・2310円)