旅行の最終の夜のこと。のこと。
せっかく香港に来たからには名物の客家料理(漢民族系の少数部族〝客家=ハッカ〟の独特な料理)を食べたい。特に鶏の丸蒸し。ちょっと疲れたので、できればホテルの近くで。
そしてもうひとつの課題。次の朝は、飛行機の関係でホテルを7時15分に出発しなければならない。ということは、6時には朝食を食べなければならない。だけどそんな早くからやっている食堂はあるのか。
時間がある旅なら自分の足で探すのが一番いいのだが、今回はそうも行かない。時間がない。
ホテルのコンシェルジェに聞くことにした。コンシェルジェ嬢は、
「はい、このホテルの3本南の道、〝長楽街〟にある〝鎗浪庭〟が客家菜の店です」
「中国式の朝食でよろしかったらホテルの向かいの〝翠華餐庁〟が24時間営業ですよ」
と、明快に答えてくれた。うん、これですべて安心だ。長男・虎太郎(仮名・中三、改め高1)と連れ立って〝鎗浪庭〟に向った。
店の前に立った瞬間からおかしいのはすぐにわかった。だって妙に豪華なんだもの。流浪の民・客家の料理店がこんなキンキラのわけがない。メニューを見たら北京料理の店だった。もう、いい加減だなぁ、ステラ・クァン(25歳ぐらい・コンシェルジェ)は。
まあ、客家はもういいや。探してらんない。こんな高そうな店は論外だけど、どこか適当に入っちゃおうよ。なんてむかつきながら言っていたら虎太郎が、
「昨日前を通った地下道の入口の脇の食堂、安そうだったぜ」
というのでちょっと2ブロック先まで行ってみたら、その店「酔橿楼飯店」は果たして客家料理の店だった。でかしたぞ、虎公。
蒸し鶏は二人で丸ごと一羽、楽々食っちまったぜ。塩蒸しなので後でノドが乾いたけどね。
それにしてもいい加減なのはステラ・クァンである。こうなると翠華餐庁の件も怪しいなぁ。確認しに行くことにした。
翠華餐庁に行ってレジ嬢に、
「貴店は24時間営業ですか」
と問うと、
「いいえ、当店は朝7時開店です」
という。やっぱり・・・・。いい加減なステラ・クァンである。
こうして、明日の朝食の場所を求めて香港屈指のダウンタウン・油麻地をさすらうことになった。そう、われわれには、「三泊四日中華三昧」というミッションがあるのだ。
さんざん歩いて見つけたのが「台湾牛肉麺 24小時(24時間営業)」と看板を揚げた店。マネージャーらしき蝶ネクタイに、
「われわれは明朝6時に食事をする店を探しているのだが貴店は24時間営業か」
と問うと、
「いかにも」
と莞爾と微笑む。これなら安心だ。
そして翌朝6時、件の「台湾牛肉麺」に勇んで行った。ところが入口が閉まっていて中では椅子がテーブルの上に乗せられている。ありゃりゃと思いつつ、店の中にいた蝶ネクタイを呼び出した。
「貴君は昨晩、24時間営業といったではないか?」
と問い詰めると、
「いかにも。24時間営業であるが、掃除の時間は店を閉める」
などという。昨晩、明朝6時と言ったではないか。なんていい加減なヤツなんだ、蝶ネクタイ(35歳くらい・レストランマネージャー)。
しょうがない。こんなところで言い争っていても腹は膨れず時間ばかりが経っていく。
7−11で三文治(サンドウィッチ)でも買ってすまそうか、と一本奥の道に入ったら、煌々と明かりをつけた一軒の粥麺屋があった。天の助け、とこの店に入った。
ああ、こっちのほうがよかったよ。すごく美味しかった。いい加減なステラ・クァンと、いい加減な蝶ネクタイのおかげで「田鶏粥」、つまり食用蛙のお粥なんていう珍品に出会えたのだ。うーん、生姜が効いてて美味しかったぁ。
結局、足を棒にしたけれど、ミッションの「三泊四日中華三昧」も完遂することができた。
いい加減な人、万歳!!だ。ありがとう、ステラ・クァン&蝶ネクタイ。
↓↓ 客家菜、「鶏の塩蒸し」と「豚の角煮」 ↓↓