ミダス王のジャスミン

友人のトニー・セイント(仮名・40歳くらい)に比内地鶏の燻製をもらった。


それを家族から数時間遅れての夕食時に食べようと真空パックを開けたとたん、風呂からあがってきた長女・花子(仮名・小6)が、手を伸ばしてきたかと思うとヒョイと摘まんで端っこを齧り、隣室に逃げ去っていった。


「しょうがねえなあ」


なんていいながら残りを食べたんだけど・・・・トニーには悪いんだが香りがよくない。香りがよくないので折角の味や食感を損なっている。燻製独特の燻りくさい香ばしさではなく、もっとツーンとくる人工的な、まるでジャスミンの香りの入浴剤のような・・・。


・・・ジャスミンの香りの入浴剤?


食事を中断して隣室に行き花子のそばに寄ってみると・・・・果たして同じ匂いがした。


風呂にこの前、試供品でもらった入浴剤を入れたという。それにしても身体に染み付くだけでなく指先で触れたものにまで移り香がして、ジャスミンの香りの比内地鶏の燻製が出来上がってしまうとは。なんという強力さ。


ギリシャ神話にフリギアのミダス王という人がでてくる。すべての幸福は黄金の所有にあると思い込み、神様に「触れたものがすべて黄金になる」まじないをかけてもらう。ところが食べ物も飲み物も家族も、ミダス王が触れたものは黄金に変わってしまう・・・。


んかそんなことまで思い出してしまうほど強力なジャスミンの香りの入浴剤であった(おおげさ)。


もちろん、その風呂にこれから自分も入らなくてはいけない。恐怖。

とりあえず浴槽のフタを開けて中に向って叫んでみようか、


 「王様の耳はロバの耳!!」 ※と。



※「王様の耳はロバの耳」の寓話のモデルもフリギアのミダス王らしい。かなりお茶目な人だったのね。