そういうわけで昨日の風呂は強烈なジャスミン臭に満ちていた。三国志の南蛮討伐篇に出てくる瘴気ただよう毒沼のようである。やむなく、浴槽にはつからずシャワーだけで済ませた。
そして今晩。
「けっしてあの入浴剤だけは使ってくれるな」
と言い置いて家を出たので、今日の風呂はまともだった。臭くない。よかった。よかった。
鼻歌まじりで風呂から上がり、サッパリした心持ちでパジャマを着た。・・・・・・ん? クンクン。
・・・・・・・・・・・ん? クンクン。
パジャマ、洗った?
「うん、洗ったわよ〜」
マータイおばさんに言われるまでもなく、我が家では洗濯に風呂の残り湯を使う。ということはこのパジャマはあの毒沼の水で洗ったのか・・・・。
すすいでもすすぎきれるものではない。明確に匂う。
やれやれしかたない、今宵はジャスミンの香りに抱かれて眠るとしよう。
『ジャスミンの香りに抱(いだ)かれて』
「ハーレクイン」か「お耽美小説」にありそうなタイトルだ。