お嬢・ひばりと、ひろちゃん

今日は忙しかったのだけど、なんとか10時過ぎに家にたどり着いた。何を急いだかというとテレビである。

今日から4週連続で「NHK 知るを楽しむ」シリーズの「私のこだわり人物伝・美空ひばり」があるのだ。美空ひばりに特別強い関心があるというわけではないが (とは言え最低限の教養として20曲ぐらいはカラオケで歌えるぞ。でも歌わない。ひばりナンバーはビートルズ・ナンバーと同じで、歌えるけど歌わないところに美学がある。長いね、カッコが) 、9月分の「古今亭志ん生」とテキストが抱き合わせで一冊なのだ。貧乏性なので両方とも「受講」することにした。

講師は宗教学者山折哲雄氏。「泣く」ということからひばりちゃんの世界へアプローチしていて興味深い。


お嬢・美空ひばりのフィルムをみていると思い出す人がいる。「ひろちゃん」だ。

母方の祖母が経営していた銭湯(そう、僕は父方も母方も風呂屋である)、麹町3丁目にあった「末広湯」の女中さん、今は女中さんって言っちゃいけないんだっけ、住み込みの従業員さん。

「時間ですよ」で言えば浅田美代子の役どころ(決して悠木千帆=現・樹木希林ではない)。新潟出身のお姉さんだった。端正な美少年で明朗快活な小学生だった僕は大層可愛がられていた。

犬の散歩にもよく一緒に行った。いつものコースの清水谷公園に行ったら、ヘルメットをかぶった全学連が気勢をあげていて、走って逃げ帰ったこともあった。「怖かったねー」と息を弾ませながら笑いあった。

おばあちゃんには、「迷惑になるからあまり入っちゃいけないよ」と言われていたんだけど、よくひろちゃんの部屋に入り浸っていた。

ひろちゃんの居室は部屋中に化粧の濃い女の人の写真やポスターがたくさん貼られていた。

「これ、ひろちゃん?」

違うとは思ったけど、聞いてみた。ひろちゃんも同じようなお化粧をしていたので似ているような気がしたのだ。

ひろちゃんは笑って否定し、美空ひばりという大好きな歌手であることを教えてくれた。

今で言う「追っかけ」だったようで、リサイタルに行っては花束やプレゼントを渡すのを楽しみにしていたと、後年、母から聞いた。

そのうちに僕も年齢が上がると祖母の家にも足が遠のくようになった。いつの間にか、ひろちゃんも祖母の銭湯からいなくなっていた。田舎に帰ったと聞いたような気もするし、お嫁に行ったと聞いたような気もする。どうにも記憶がはっきりしない。


それでも、ラストコンサートや葬儀の際のファンの大群衆の映像などを見る機会があるたび、「ああ、このなかにひろちゃんがいるかもなあ」と思ったりする。今、計算してみたら、ちょうど還暦くらいなんじゃないかなぁ。お元気で幸せならいいなぁと思う。