「蟻の兵隊」ふたたび

banka-an2007-09-29


蟻の兵隊」という映画がある。山西省残留日本兵の問題をテーマにしたドキュメンタリー映画だ。去年、単館ロードショーで公開され異例のロングランとなり、その後も各地で自主上映会が開かれている。


僕も去年の公開時に見て、とても感動した一人だ。



そして一年、とうとう「蟻の兵隊」が隣町の日野にやってきた。「七生公会堂」での自主上映会。「三多摩蟻の兵隊を観る会」の主催。今回は池谷薫監督と奥村和一さんのトークもあるという。これは再び行かずばなるまいと拳を握り締めた。そしたら僕の隣で拳を握り締めてる人がいた。そういうわけでまたツレと行って来た。


初めて行く七生公会堂はキャパ200くらいかな。それが満員札止めとなっていた。戦争を知る世代の観客が多かったように思う。僕は平均年齢を下げていたと思う。



映画の感想は去年と同じ。すばらしいの一言。去年は「誰にでも勧められるというわけでもない」というような事を書いたが、いやいや誰にでも勧めていい映画だと思う。抑制の利いた演出はやはり説得力があった。エンドロールが終わると自然と場内は拍手が鳴り響いていた。



休憩時間をはさんで、まるで海賊か往年のプロレスラー、キラー・カーンのようにいかつい監督と、痩身で柔和な印象の奥村さんが揃って登壇。


このそしてお二人のトークがなんともびっくりの面白さ。監督が話がうまいの。S尻Eリカ嬢は「クローズド・ノート」の舞台挨拶でニコリともせずにダンマリを決め込んだらしいが、それとは対照的にこの監督さんは、パワフルに面白く、なおかつ熱く語ってくれる。これは人柄の問題もあろうけど、結局は「伝えたいものがある人」と「伝えたいものがない人」の違いだと思う。



そして奥村さんの言葉の一つ一つには千鈞の重さがあった。監督が奥村さんからうまく話を引き出している。撮影の裏話も興味深かったし、日本に帰国した後の奥村さんの人生にも触れることができた(そのへんは奥村さんの著書『私は「蟻の兵隊」だった 中国に残された日本兵』にも詳しい)。そして奥村さんの「顔」を実際に見られたのもうれしかった。


お二人の話で、特に興味深かったのが「戦争の手触り」。監督が言うに、それが我々若い世代と奥村さんの違いだという。いくら勉強しても僕たち若い世代が持っていないものを奥村さんは持っている。それが「戦争の手触り」。奥村さんの手には初年兵教育の「肝試し」として中国人を銃剣で処刑したときの感触が残っている、だから奥村さんたちの話を聞かなければならないのだ。



この映画は素晴らしいのだが、やはり時間の制約がある。残留問題の事実をすべて追うのは困難だ。そこで監督は、あえてこの映画を人間ドキュメントとした。で、事実関係の追及の方は本職のルポライターかノンフィクション作家かジャーナリストに任せて・・・・となるのが普通である。



普通じゃないのがこの池谷監督という人。自ら同名の大冊のルポルタージュを見事に書き上げたのだ(新潮社刊『蟻の兵隊 日本兵2600人山西省残留の真相』)。この本については先月、蕃茄山人さんが「書評のメルマガ」に凄くいい書評を書いているので、ぜひご一読いただきたい。


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そして「蟻の兵隊」の公式ページはコチラから ←← クリックしてください。予告編も見られます。ぜひ皆さんもお住まいのエリアの近くの上映会に足を運び、ご覧になっていただきたいと思う。