映画「筆子その愛、天使のピアノ」

 ずっと見たいと思っていた映画「筆子その愛、天使のピアノ」を見ることができた。くにたち市民芸術小ホールにて。国立市制施行40周年事業 の一環の「親子映画会」である。先日、市役所で無料の入場整理券をもらったのだ。


 国立にある、日本初の知的障害者福祉施設「滝乃川学園」は、まだ“福祉”という言葉すらない時代に、一人の青年石井亮一によって創立された。


 このことは先月、「くにたち郷土文化館」での「滝乃川学園創立者生誕140周年記念 滝乃川学園〜石井亮一・筆子夫妻の軌跡〜」展の記事で書いたね(12月24日まで)。


 そしてともに学園を支えた妻が石井筆子。かつて“鹿鳴館の華”と呼ばれた女性で、日本女性代表として津田梅子と共にアメリカにも渡っている。旧大村藩重臣で瓦解後は福岡県令(県知事)となった渡辺清の令嬢だ。その波乱の生涯を描いたのが、この映画「筆子その愛、天使のピアノ」だ。


 天使のピアノとは筆子愛用のピアノで、今も学園に残されている(現役である)。僕も学園のチャペルでの演奏会を聴きに言ったことがある。


 ていねいに作られたいい映画だった。配役は筆子に常盤貴子、夫・亮一が市川笑也、筆子の父に加藤剛、生涯仕えた女中に渡辺梓。

 
 常盤貴子を別に特に上手な女優だとは思わないし声もよくないと思うのだけど、なにか不思議なスケール感がある。こういう役を堂々と演じられるのはやはり彼女くらいしかいないだろう。市川笑也がいいね。ご存知「大沢潟」の愛弟子さん。高潔かつ温かい人柄がよく演じられていた。


 他にも中堅の名脇役がたくさん出ていた。のちに改心する人買い・小倉一郎。学園の庶務職員・頭師どですかでん佳孝。戦死する卒園生の父・山田隆夫。自警団・有薗芳記。津田梅子の父・平泉成。卒園生の母・石井めぐみ。渡辺梓の母・絵沢萌子。現代の津田塾教授・堀内正美。現代の学園職員・石濱朗


 この映画、全国を回っているようなので、お近くで上映会があったときはぜひご覧になっていただきたい。


 やっぱり歴史を変えるのは「向こう見ずなお嬢様」の力だなぁ。改めてそう思った。


 それからエンドロールを見ていてびっくり。ピアノ指導がピアニストの下平晶子さん。次女・花子(仮名・中2)が通っていた教会学校の先生もボランティアでされていた方で、子供たちには「しもちゃん先生」と慕われている。まあ、僕がさっき「天使のピアノの学園チャペルでの演奏会」というのも下平さんの演奏会だったのだから、驚くこともないかもしれない。



 映画はすごくよかったし、企画してくれたのには感謝するのだけど、改善点はある。あえて苦言をひとつ。


 まず、300人キャパの会場が約4割の入りだったこと。もったいない。しかも某ルートから得た情報によると、整理券はすべて市役所や児童館で配布して出尽くして、断られた人がいるという。つまりタダだから整理券はもらったけど来なかった人が6割いるということ。これが無料イベントの難しいところ。


 やはり100円でも200円でもとるべきだと思う。財布を開いて買ったチケットだったら忘れないし、無駄にはしない。必ず来てくれる。「タダじゃないと行かない」という人のことは配慮しないでよかろう、と思う。


 それから、この映画会から「くにたち郷土文化館」での「滝乃川学園〜石井亮一・筆子夫妻の軌跡〜」展への誘導がほとんどない、というのも実にもったいない!! 石井筆子や滝乃川学園に興味を持って映画を見に来た人を同展に引っ張っていかずにどうする。出羽の守は趣味ではないが、民間では考えにくいノンビリ屋さんぶりだぁ。



 それはさておき、ずっと見たかった映画が見られてよかった。近くでありながら今ひとつわかっていなかった学園のことが少しわかり、近づけたような気がする。