続・嗚呼、大垂水峠   甲州街道徒歩(かち)紀行〈5〉

・・・・・8月14日(木)初日の5・・・・・

峠を越えたとたん、しきりに

「もう旅館見えた?」

と聞いてくる三吉。

見えるわけがない。大垂水峠から旅館のある「与瀬宿」までは6キロ以上あるのだ。

山しか見えない街道をテクテクと下る。5年前の地図に載っているドライブインが、ホテルが、ガソリンスタンドが廃墟になっている。


いよいよ暗くなってきた。旅館には6時にはつくと連絡を入れていたが6時を回ってしまった。再び旅館に電話を入れた。7時ごろになりそうです。

「今、どちらを歩いておいでですか?」

えーーーーっと・・・・。見回すと資材置き場がある。「○○土木 千木良資材置場」とプレートが着いている。

千木良です。

「じゃ、もうすぐですね。お気をつけていらしてください」

電話を切って歩き出してから地図を見たら、そこは千木良にはまだまだほど遠かった。千葉県なのに「東京」と冠している遊園地があることは知っていたが、資材置場にまで「現地詐称」の波が及んでいたとは知らなんだ。


三吉はもう限界近くまで疲れきっている。それなのに「荷物持ってやろうか」と言っても頑として荷物を放さない。意地、なんだろう。

暫く歩いて、峠以西で最初の宿場である本当の「千木良」に着いた。酒屋の自販機の前のベンチで一休み。コーラを飲みたいというので「デカビタにしろ。パワー付くから」と暗示をかけデカビタを飲ました。5分休憩の予定だったが、三吉は3分で立ち上がり。「もう大丈夫」と歩き出した。もしかしたらガムテープで肩こりが治るかもしれない。


次の宿場「小原宿」まで来たときにはすっかり暗くなってしまった。昼間ならば旧街道の風情のある家並みが楽しい町だ。

デカビタ効果もむなしく三吉の限界は近づき遅れがちに。

うしろから歩いてきたおばさんが声をかけてくれた。

「疲れてるわねえ。頑張って!! 駅はもうすぐよ。あとは平らな道よ」

ありがとうございます(駅には行かないけど)。あれ? なんかちょっとにぎやかですねぇ。

「今日はお祭りよぉ♪」

宿場のかどかどに提灯が出ていて、本陣の前の広場からは祭囃子が聞こえてきた。広場に大きな山車がありその上でお囃子が奏でられていたのだ。山車の屋根の上には大きな神像が飾られている。神像の両脇には童子の像。その目には電球が埋め込まれていて暗闇にピカピカ光る。ちょっと怖い。


小野宿を通り越してしばらく歩くとようやく与瀬宿。相模湖畔の宿場。旅館ももう近い。甲州街道をはずれて湖畔への道へと下りる。

「ねぇ、旅館見えた?」

見えたぞぉ。今宵の宿、「清水亭」のネオンが見えたところで携帯電話が鳴った。ツレからだった。

「今、旅館の人から電話あったわよ。着くはずの時間になっても着かないって」

ああ、さっきの電話で「今、千木良」といってしまったからなあ。携帯番号を教えてなかったので、申し込み時に伝えた自宅の番号に電話をくれたようだ。申し訳ない、心配をおかけしてしまった。


倒れ込むようにして旅館「清水亭」にたどり着いたときは七時半。家を出てから13時間。歩数50,197歩。家からの歩行距離は約35.5キロメートルだった。