仕事先までタクシーで。そこで運転手さんに聞いた、許せない話をご紹介しよう。
僕が乗ったタクシーの運転手さんは、もう「おじいさん」といってもいい年の実直そうな人。職場から近い、ある大きな交差点でコース取りを間違えてしまい、ちょっと遠回りになってしまった。いいよいいよと言ったのだが、
「それでは私の気がすみません」
と、突然メーターを戻し、
「初乗り料金でお送りします」
とのこと(いつもは1500円くらいかかる)。かえって申し訳ないですねぇ、というと。
「いえいえ乗っていただけるだけでありがたいんです。お金は二の次なんです」
はぁ。
「私ももう70ですから」
はぁ。(妙な車に乗ってしまったかもしれない) 。
「最近は乗り逃げが多いんです」
そうなんですか!?
「多いときは一万円以上やられます」
そりゃひどいですねえ。
「先日などは立派な身なりの男が“福島のA温泉行ってくれ”っていうんです。」
福島! 遠いですよね。
「はい。ですから私も“タクシーだと8万円はかかっちゃう。お金がもったいないから新幹線でいきなさい、って諭したんですよ。そしたら“新幹線の切符を買うお金がない。A温泉にさえいけば家族がお金を払う”ってこういうんですよ」
はぁはぁ (よくある手だなぁ)。
「でもね、私も昔の人間ですから、“それでももったいない。新幹線代くらい貸してくれる友達もいないのか?”って説教したんですよ」
それでそれで?
「いろいろ話してるうちに、売り言葉に買い言葉で、私が貸すことになったんです、2万円」
はあっ?!
貸しちゃったのぉ?! なんで?
「だってね。こちらが財布を開かざるを得ないことを言うですよ」
どんなこと?
「私のこめかみのところをじっとみてね・・・・・・・・。
はい,着きました!! 」
あっ、目的地に着いてしまった。男は何を言ったのか。こめかみのところをじっとみて何を言ったのか。
「落ち」がわからないまま降ろされてしまった。
タクシーはちょうどタクシー待ちをしていた女性を乗せて、ブロロロロと軽快に走り去ってしまった。
落ちは!? 割引なんてしてくれなくていい、1500円払っても良い。いや、多少、遠回りをしてもいい。
ああ、肝心の落ちも言わずに行っちゃうなんて・・・・・。
許せない!!
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