承前「武士の家計簿」

午前午後、金原亭馬生「がまの油」、桂文治「豆屋」、桂文朝「子ほめ」



さて、映画「武士の家計簿」。面白かったです。どんなに面白い映画でも芝居でも演芸でもコンサートでも必ず寝る古強者のツレが寝なかったのだ、。二時間超のあいだ。


この映画の原作は、少壮の歴史学者である磯田道史氏が古書市で十余万円で落札した行李一杯の「猪山家文書」。幕末の下級武家の家計簿からその時代を読み解いたノンフィクションで、当時ベストセラーになった。僕も当時、夢中になって読んだ。

このクールでスピーディーな原作を、しっとりとした人間ドラマにしたのが、さすが松竹、さすが森田芳光と言えよう。


勤勉で堅物な御算用方(経理マン)、猪山直之(堺雅人)の不正に与しない不器用な生き方は、「正直の頭(こうべ)に神宿る」もので決して珍しいものではないが、すがすがしく感動的だ。もちろんそれを支えた家族も然り。

広義の広義の経理マンの端くれの端くれである僕も、思わず襟を正した。


主人公の堺雅人もいいし仲間由紀恵も健気でいい。進境著しいと思った(生意気ですみません)。


そして主人公の母の松坂慶子。僕は四十年に亘るファンなのだが、いいなあ。ニッポンの大女優、最後の大女優だなあ。可愛らしい稚気に加え帯周りの肉置き(ししおき)の豊かで典雅なことは、太古の女神を連想させる。



蛇足なから、注文二点。


ぜひ舞台化して欲しい、明治座か帝劇か新橋あたりで。

そうしたら、カーテン・コールで思い切り「マツザカッ!」て声をかけられるもんね。


それともうひとつ(以下、若干のネタバレちうい)。




後半、主人公の一子・成之(同じく御算用者)が、大村益次郎に明治陸軍に招聘されるシーン、


「これから先は君のようなタクティクスのわかる人間が兵士千人に値するほど必要だ。つまり兵士の弁当の手配、草鞋の手当て‥」


これって「タクティクス(戦術、用兵)」じゃなくて「ロジスティックス(兵站)」じゃないのかなあ。

手元に辞書も資料もないのでよくわからないのだけど。英語、軍事、物流に明るい諸賢の助言を待つ。



とにかく、全国で公開中。おすすめです。