2008年12月。「朝日歌壇」に衝撃的な短歌が掲載された。
(柔らかい時計)を持ちて炊き出しのカレーの列に二時間並ぶ
(柔らかい時計)とは当然、ダリの作品に登場するベロングニャリと木の枝にひっかかるあの時計のことだろう。
投稿者の名は公田耕一。住所欄には(ホームレス)とある。その後も公田は、
鍵持たぬ生活に慣れ年を越す今さら何を脱ぎ棄てたのか
パンのみで生きるにあらず配給のパンのみみにて一日生きる
などの歌で次々に入選し、歌壇の話題を独り占めした。しかし、約9ヶ月で公田の投稿は止んだ。経歴、プロフィールなどは一切不明のままである。「連絡乞う」との歌壇欄からの呼びかけにも応えていない。つまりすべて謎のまま、作品だけを残して忽然と姿を消したのだ。
その正体を突き止めようとした活動の一部始終を書いたのが『ホームレス歌人のいた冬』 (三山喬著、東海大学出版会発売、1,890円)である。
9月13日に倒れて以来ずっとお休みさせていただいていた「書評のメルマガ」。2月3月と「闘病生活を支えてくれた本たち」、つまり今までの人生で読んできた本(「がきデカ」とか「空手バカ一代」とか)について書いたが、今月はちゃんと新刊を買って読んで書いた。
「日曜書評家」復帰の春である。堂々の復活宣言である。
その本格復帰第一弾で取り上げさせていただいたのが『ホームレス歌人のいた冬』というわけ。
果たして「ホームレス歌人」とはなんだったのか。それは「書評のメルマガ」公式サイトにて 続きをぜひお読みいただきたい。ぜひ。
キーワードは「寄る辺無き魂の彷徨」だな、多分。<今日の一句>
春風に 押されて筆を 執りにけり
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