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錦の御旗や葵の印籠を振りかざすようで気が引けるが、昨年の今頃僕は、日本人の死亡率で堂々の第三位の病を得て死に掛けた。不幸中の幸いで九死に一生は得たものの、新たな芸風(「障害」ともいう)を身に着けた。
身の回りの人たちはみな励ましてくれた。
「がんばって!!」
・・・がんばりすぎたのでこうなったんです。
「ゆっくり休んで!!」
・・・ゆっくり休める性格ならこんな病気にはなりません。
「大丈夫!!」
・・・ええ、僕も一秒前まで大丈夫だと思ってました。
もちろん、ありがたく思っている。みな、心から僕を思ってのことだ。それを否定するほど僕は不遜の人ではない。心の底からありがたい。
ありがたいんだけど、前向きな言葉というのは、時としてダメージを受けた身には鋭く突き刺さる。
いま、世の中には前向きな言葉が横溢している。
「がんばろう」
「くじけないで」
それを否定するつもりは毛頭ない。それら前向きな言葉によって救われる、力づけられる人は数多くいる。それは間違いない。でも・・・。
いわく、
「くじけな」
くじけな
こころゆくまで
くじけな
くじけな
くじけな
くじけないでと
はげますあいのつよさに
くじけそうなときには
くじけな
くじけな
よし
くじけてよし
くじけたこころにしか
みえないものをみあげ
ほほえんでいればよし
(「くじけな」)
ツィッターから生まれた詩集だという。
他にも
「夢をあきらめな」
「君は一人じゃな」
「小さいことにくよくよする」
等の作品が収録されていて、そのいちいちが僕の心に沁みる。
そう思ったのは、僕だけじゃない。先日大手取次から発行された、今年の読書週間の標語「信じよう、本の力」にちなんだ宣材「本の力ブックリスト」にも大ベストセラー『くじけないで』と並んで紹介されていた。
一見、悪洒落の様でも、韜晦の向こうに苦く重い真実がある。と思う。
くじけそうな時、
くじけた時、
くじけてみたい時、
そばにこの『くじけな』があったら、その人はちょっと幸せになれると思う。
ぼくもそうだった。
『くじけな』
枡野浩一著
文藝春秋刊
ISBN 978-4-16-380710-2
税込 700円
<今日の1句>
励まされ いや増す秋の 憂いかな
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